歩幅はぴったりで距離はほんのわずか。でも心の距離はまだ測れない。
近すぎるのに、どうしてこんなに遠く感じるんだろう。
思わず心の中でつぶやく。
「信号機でも見なよ…」
気持ちとは裏腹な言葉を小さく言うと、彼がほんの少しだけ身体をこちらに寄せた気がした。
吐息が胸の奥でじんわり震える。視線がようやく私から外れてアスファルトの先に行ったようだけれど、いまだに見つめられている感覚が残る。
青に変わる寸前の信号が、指先ひとつで触れそうな距離を照らす。
その距離感が、胸の奥をこんがらがせる。
ただ並んで歩いているだけなのに、心がざわつく。
赤と青の光に揺れる世界。
言葉は途切れたままでも、視線で伝わるものがある。
彼の目の微かな揺れ、私を見るたびに変わる表情。それだけで胸が熱くなる。
─────もしも触れたら、何が起こるんだろう。
吐息に混ざる冬の空気も、鼓動も、三日月の光も、全部ふたりだけのものになったような気がする。
心の距離は近いのに、まだ触れられない。
でも確実に、何かが変わろうとしている予感だけが、夜の空気に溶けていった。



