月が青く染まる夜に

書き終えた瞬間、背後から影が落ちた。

振り向くと、いつからいたのか、迅和くんがタブレットを抱えたまま少し身をかがめて、ボードを覗き込んでいた。
ヘルメットのつば越しに、真剣な目。

突然の登場に、挨拶をする声も出なかった。


目を丸くしたままであろう私に、迅和くんはボードを見つめたまま「今日はこれで回すんですね」と納得するような声色でぽつり。

「この順番で回すなら、地上動線は東側に限定した方がいいですね。作業員の交錯を防げるので」


その提案を受けて、私は図面を広げて彼が示したラインを指でなぞる。

「じゃあ、立入制限エリアを東側に拡張して、入口を一か所に絞ります。テープ追加で対応します」

「それでいきましょう」

短いやり取り。

そのあと、妙な間があいた。


ん?と顔を上げると、迅和くんが真正面から私を見つめていた。
もしかしたら、こんなに間近で目が合うのは初めてかもしれない。
茶色の瞳があまりにも真っ直ぐ私を見てくるものだから、変な心地がしてこちらから視線を外した。

すると、ズレたように

「あ、おはようございます」

と言われた場違いな言葉に、ずっこけそうになった。

「ちょっと。今?」

「すみません、何も考えずしゃべってたら、相手が紗菜さんだと気づくのに遅れました」

なんだ、それ。

面白くて肩を震わせていたけれど、次に彼を見た時にはもう彼は手元のタブレットに視線を落としていた。

彼はあちこち見たり、じっと見つめてきたり、視線の行き先が予測しづらいな。
彼がタブレットに指を滑らせる様子をなんとなく眺めていると、ふと迅和くんが顔を上げた。

見ていたことを悟られてしまったのかとドキッとしたけれど、そうではなかった。