月が青く染まる夜に


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朝のオフィスは、やけに白い。

昨夜ほとんど眠れていないはずなのに、不思議と頭は冴えている。
ソファのきしみも、ちくわの警報も、ちゃんと覚えている。


できるだけ普通の顔で席につくと、ノートパソコンに付箋が貼ってあることに気づく。

『至急、仙岸地域のA案でブレーカー盤の型番一覧が欲しいので、調べて二十部印刷お願いします。営業 萱場』

朝早く出社した営業課からの依頼だろう。
メールする暇もなく外回りに行ったのかもしれない。

パソコンを立ち上げて、指示通りに型番を調べて一覧を引っ張り出し、印刷をかける。
まだコートを着たままであることを思い出して、後ろからうなるコピー機を背に脱いだ。


髪の毛をクリップで留め、くるりとコピー機を振り向いた時、ちょうど迅和くんが事務所に入ってきた。

その姿を見た瞬間、心臓が跳ねる。

コピー機のすぐそばにいた私に気づくと、彼はじゃらりと信号機のキーホルダーを鳴らした。

「おはよう」

ふたり同時に、挨拶する。
いつも朝はだるそうな彼もまた、一段と眠そう。

心の中で謝っていると、コピー機がピピピピピ!と警告音を出してきた。
なんだか、夕べのちくわみたいだ。

赤のランプを止めるべく、原因は紙詰まりと特定してすぐに対処する。
朝からコピー機と格闘していると、今度は違う声。

「おはよう。大丈夫?」

顔を上げると、営業課の笹原さんだった。

「いつもの不機嫌モードですよ」

私は答えながら、ちぎれている紙をトレイから抜く。

「あ、とっきーも、おはよう」

「おはようございます」

忘年会から、笹原さんからは変わらずずーっと“とっきー”呼びをされ続けている。
最初の頃なんかは、「佐藤です」「迅和です」「佐藤迅和です」と返していたみたいけど、もう今は訂正すらしなくなった。