月が青く染まる夜に

彼の唇が頬へ移り、耳元にかすめる。

思わず、彼の服を掴む。
その瞬間、彼がぴたりと止まる。

理性が、まだちゃんといる。

そのことに少しだけ安心して、少しだけ物足りない。

私は自分から、もう一度距離を詰めた。
“許す”というよりも“一緒に進む”、という感じ。

ソファがきしんで、呼吸が重なる。
彼の手が私の頬に触れ、親指でそっとなぞった。この仕草は、まずい。
私のほうがよっぽど理性が飛びそうだ。

視線が絡んで、どちらも逸らさない。

進むしかない、青信号だ。


その時。

「シャーーーーーーッ!!」

背後から今日イチの鋭い警報。


私たちは同時に動きを止める。
迅和くんの腕の中で、私は笑いを堪えきれない。

振り向けば、ソファの背に鎮座する白いセキュリティーゲート。
完全に、ちくわの目が本気だ。


迅和くんが額を押さえる。
そしてほんの数秒だけ目を閉じて、私の肩に身を預けて何度も深呼吸していた。

「────これは仕事より大変すぎる」

「ちくわ?」
 
顔を上げた迅和くんが小さくつぶやいた。

「理性を保つのが」

ちくわが、もう一度短く鳴く。
まるで“そこで止まれ”と言わんばかりに。