月が青く染まる夜に

廊下の奥から現れた白い影は、背中を弓なりに反らし、耳をぺたんと倒していた。

完全武装。
完全敵認定。
いつもと違う香り、いつも私しか帰ってこないはずの玄関、男性という異物を確信したちくわの臨戦態勢。

恋人初訪問を察知した瞬間、猫信号は迷いなく赤に切り替わった。

「大丈夫だから。たぶん」

私も靴を脱ぎながら言うけれど、ちくわは予想よりも迅和くんを敵視しているのか、一歩も引かない。
リビングに入らせまいと、廊下で威嚇を続ける。

「シャーッ!」

迅和くんが一歩動く。

「シャーーーッ!!」

「────僕、なにもしてないよね?」

「存在がアウトみたい」

「エサとか持ってきたほうがよかった?」

「噛みつかれるよ」

話しながら、営業課の笹原さんの話が浮かぶ。
彼の恋人も、“ガガ様”という名の猫を飼っていて、シャーシャーされると嘆いていたっけ。

うちは大丈夫だろうと思っていたけれど、これは予想以上にまずい。

「ちくわ、シャーシャーやめなさい」

私は無理やりちくわを抱っこして、とりあえずリビングへ続くドアを開けて彼を中に入れた。