月が青く染まる夜に

やがて、隣から小さく息がこぼれる。
「…よかった」

予想外の反応に、反射的に顔を上げてしまった。

ゆらりとした照明の明かりのしたで、迅和くんがほんの少しだけ笑った。

「嫌われたのかと思った」

その一言が、胸の奥を真っ直ぐ射抜く。

「そ、そんなわけない!」

即答する私も私だけど。
こんなに堂々と言えるなら、言えばよかった。

「僕さ、現場で考えてたんだよ。このまま距離置かれたらどうしようって」

たぶん色々思い巡らせていたのだろうと気づかされる言葉だった。

ああ、と思う。
私は守っているつもりで、彼を不安にさせていた。

会社で崩したくなかった。
仕事はいつも通りにしたかった。
ちゃんとしていたかった。
好きになったからこそ、軽く見られたくなかった。

でも、守る方向を、少し間違えていたかもしれない。


テーブルの下で、そっと手を伸ばす。
ほんの少し、彼の小指に触れた。

会社では絶対にしない距離。

「避けてないよ」

今度は、はっきり言えた。

「避けてないからね、絶対」

迅和くんがこちらを見る。
私は自ら再起動をかけて、視線を逸らさないように見つめた。

「避けてないけど、固くはなるよ」

「うん。分かった。仕方ないね」

あっさり許されて、私もようやく笑いがこぼれる。