月が青く染まる夜に

目が合うたびに、心臓が一瞬だけ強く打つから。
あの信号機のキーホルダーが揺れるたび、どうでもいいことで意識が持っていかれるから。

それを悟られないように、私は“仕事の顔”をかぶる。
きちんとした総務部員の顔。
冷静で、淡々としていて、誰にも特別な温度を見せない顔。

「避けてるんじゃないよ」

自分でも驚くくらい、声が静かだった。

「この間も言ったでしょ。“再起動”」

「…プロジェクター?」

思い出したかのように、迅和くんが聞き返す。

「そうそう。もうね、毎日、毎回、再起動してるの、自分を」

「なんで?」

今度は、彼のほうが口にした“なんで?”に、やっぱり自覚ないんだなぁ、と思って半分笑ってしまった。

「会社で迅和くんと目が合ったり、なにか話したり、ちょっとやさしくしてくれたり。それだけで心拍数が爆上がり、からの、キャパオーバー」

言ってから、遅れて熱が上がる。

「そんなわけで、今もだいぶ再起動したい所存であります」

もう、私は彼の顔を見れない。

本当に再起動をかけたいくらい恥ずかしいからだ。
口調までもが、おかしなことになってしまった。

自分で言っておきながら、穴があったら入りたい。


カウンターの木目がやけに鮮明に見える。

しばらく沈黙が落ちた。
店内のざわめきが、逆にこの席だけを囲っているみたいだった。