月が青く染まる夜に

逃げるようにかごバッグを掴んで、足湯から出ようとして石に足をかける。

乱雑に出たので同時に浴衣の裾にもお湯がかかる。
でも、もうそんなのどうでもいい。
早くこの場から立ち去りたかった。


立ち上がった瞬間、手首を掴まれた。

その手は熱い。
迅和くんの手は、まだ温泉の温度を持っていた。

彼も立ち上がる。

濡れた足が石畳を踏む音。
距離が、一瞬で縮まる。

暗がりの中、彼の顔が近い。

さっきまで静かだった目が、変わっている。
深くて、強い。

やっぱり、言葉はない。
でも、その視線はさっきよりも逃げない。
そして、私を逃がしてくれない。

「なんで……」

私の声がかすれてしまった。
かごバッグが手を滑り落ちて地面へ転がる。