月が青く染まる夜に

「なに?迅和くんといつの間にそんなに仲良く?」

「いえ、別に」

あえて、私も深い意味はありませんよというニュアンスで答える。

「一応教えてあげるね。彼、紗菜ちゃんより年上よ」

「────えっ!?」


思わず少しばかり声を上げてしまい、慌てて小声に戻す。

「私に対して敬語なのに?」

「忘れたけど何年か前に中途で入ってきたから、敬語使ってることがほとんど。紗菜ちゃん、彼にはやたらと強気じゃない?」

「そんなつもりは」


言いかけたあたりで、私の後ろに鎮座するコピー機が
ピピピピピ!と音を立てた。

またか、と重い腰を上げて立ち上がる。


最近よく見かける、コピー機に異常がある時に知らせる赤いランプが点滅している。
たいていが紙詰まりであることがほとんど。

パカッと上のカバーを開けて、いつも詰まりやすい箇所を確認する。
まるでアコーディオンみたいに、折り重なったコピー用紙が見えた。はあ、とため息まじりに、力任せに引っ張る。

ビリッ!と大きな音で紙が破れる。


営業課の笹原さんがこちらへ走り寄ってくる姿が見えた。彼がコピー機にデータを送信していたらしい。
直しに来てくれたようだ。

それより先に、私の向こう側に座っていた迅和くんがすぐに振り返って隣にやってきた。


「僕、これ直すの得意なので」

そう言って、破いてしまった残りの紙を、優しく伸ばしながらゆっくり引っ張った。
するりと紙が抜けて、赤い故障ランプが緑へ点灯した。

「紗菜さん」

呼んでと言ったすぐそばから、迅和くんの口から私の名前が出た。

「大丈夫です。任せてください」


タッチの差で笹原さんが「悪い悪い!」と迅和くんに謝っていた。

「こいつも寿命かなあ。紙詰まり多すぎ」

「まだ使えます。頑張ってもらいましょう」

そう言ってコピー機を優しく撫でる彼の指先は、なんだかあたたかく見えた。

私がその姿を見ていると、ほんの一瞬、迅和くんと目が合った気がしたけれど、瞬きのうちにもうそれは消えていた。


目、合わないなあ。

そう思いながらイスに座り直して、ふとさっき呼ばれた「紗菜さん」が耳に残る。
赤から緑へ、あのコピー機のランプが移り変わるみたいに、私の心まで少しずつ移り変ってるみたいだった。


なんだか、ここ最近の私は、ちょっと変だ。
キーホルダーみたいに、私の心も揺れていた。