月が青く染まる夜に

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ロビーで合流したとき、迅和くんも紺の浴衣を着ていた。
暑いのか、茶羽織は着ていない。腕にかけている。
帯は低めの位置で、きちんと締められていた。

昼間スーツで見ていた人と同じはずなのに、肩の力が少し抜けて見える。

「すみません、遅くなりました」

まだ、彼の髪が生乾きなのが見て分かる。
私を待たせていると思って、急いで来たに違いない。

「ゆっくり入ってきてよかったんだよ」

「いや、そういうわけには」

彼はそう言って、ここに来る前に買ったらしいアイスを取り出して、私の横に座ると差し出してきた。

「アイス、早く食べたいかなぁと思って」

「え!買ってきてくれたの?ありがとう」

「チョコと抹茶、どっちがいいですか?バニラは売り切れでした」

悩みに悩んで、抹茶を選んだ。

売店の明かりだけが煌々としていたのに、どうやら店じまいなのか販売員がパーテーションを持ち出している。


「ふふ、美味しーい」

「足、寒くないですか?」

ソファーから投げ出していた浴衣の裾から見える私の足が気になったのか、そんなことを言われてすぐさま引っ込めた。

「寒いけど、大丈夫」

いい感じに溶けてきたアイスを口に運びながら答える。
温泉の熱がちょうどいい具合に取れてきた頃に食べるアイスは、さらに美味しかった。

チョコのアイスをあっという間に食べ終えた迅和くんが、私が食べ終わるのを待っていたように切り出す。

「外、足湯あるらしいです。行きませんか?」

ガラス越しに見える外の景色は、真っ暗。
昼間に見えた木々のざわめきもここからは見えない。

ただ、ポツポツと等間隔に配置された灯りがゆらいている。

「……うん」

食べ終わったアイスの器を、備え付けのゴミ箱に落とした。

ほんのりと漂う、たぶん同じせっけんの香りが、平常心を保たせてくれている。