月が青く染まる夜に

真奈美さんが隣で小さく笑う。

「さっきから一回も話してないね」

「え?」

「あちらの、紗菜ちゃんの気になる人」

言いたいことは分かるが、目を逸らす。

いったい彼女のこのビールは何杯目なのか、何度もお酌をさせられている。
いつも酔っ払うと余計なことを口走るから、ごまかすように私もビールを飲む。

「いいんですよ。仕事の話は終わったので」

「終わったからこそ、でしょー」

真奈美さんはそれ以上言わない。
もはや手酌でビールを注ぎながら、意味深に目を細める。

「分かってます…」

周りの人でさえも思うくらい、私たちは平行線なのか。
そう思うとなんとも言えない気持ちになった。
背中を押してもらわないと、なにも始まらないのか…と。


親睦会は盛り上がり、酔いと笑い声が天井に溜まっていく。

二次会の声も上がったけれど、私は丁寧に断った。

真奈美さんも、他部署に気を遣うよりは部屋で缶チューハイを飲む方がいい、と私と共に大広間をあとにした。


「先に温泉、入るでしょ?」

「はい」

真奈美さんに呼びかけられて、私はうなずく。
お互いに浴衣に着替えて、廊下は寒いので茶羽織も上に重ねた。

持ち込んできたらしい、缶チューハイを部屋の備え付けの冷蔵庫にありったけ詰め込んだ真奈美さんは、旅館専用のかごバッグに貴重品を入れて立ち上がる。

「行こっか」

同じ出で立ちで、一緒に部屋を出た。