月が青く染まる夜に

「ねえ。あの人ね、優しいよね」

頬杖をついて、試すような目で私を見ている。
なにもかも、私の気持ちも、全部分かっている目だ。

「でも、放っておくとすぐ仕事のほう行っちゃうの。忙しいとか、疲れたとか、絶対言わない人。頼られると断らないし、そして…自分のことは後回し」

その言い方は、経験談の温度をしていた。

「ちゃんと掴まないと、あの人すぐどっか行くよ。掴めそうなら、離しちゃだめ」


迅和くんは、誠実だ。
彼女の言う通り、優しくて、真面目で、弱音は確かに吐かないし、文字通りの、仕事人間。

だからこその、私への声がけなんだと分かる。


「片桐さん」

ぎゅっと膝の上で、手を握る。

「ありがとうございます。ちゃんと…、ちゃんとします。ちゃんと、掴みます」

ちゃんと掴んで、離さない。

私の真剣な顔に、ふっと片桐さんの顔が綻ぶ。

「────うん。頼んだよ」


おかげで私の心も軽くなって、やっと向き合える覚悟ができた。

ちゃんと、掴まないと。
自分から遠ざかっていく人だからこそ、私も遠ざけないで、引き寄せる努力。

その覚悟を、ようやく決めた。