12人と私のハチャメチャ寮生活! ➊輝石の12人のジュエル達

『ガチャリ』

私、天石咲希は、セレブ学園『煌輝学園』に編入することにした。春と夏の間の、梅雨の時期に。

そして今、校門をくぐった。一瞬にして空気が変わる。甘いような、からいような雰囲気だ。

そこに、ここは現実世界ではないのではないかと勘違いするレベルの上品な美人の人が来た。

「ようこそ」

「あっ、よ、よろしくお願いいたします。編入してきました天石咲希と申しますっ」

「私は煌輝学園の副校長、宝城輝世子です」

副校長先生なんだ……。輝世子って名前、綺麗だなぁ。

なんて感心していたら。

「さあ、校舎に入りましょう」

と言って、足を踏み出す副校長先生。

私は校舎に入ってみる。眩しいゴージャスな電球が、興奮する気持ちを更にアップさせる。

「煌輝についての説明をしますので、応接室にご案内します」

応接室に着くと、ふかふかの茶色のソファが出迎えてくれた。

その後、副学園長先生が寮での生活の仕方や、門限と点呼、カフェテリア・図書館の使い方、マナーと片付けの仕方、補習や進路サポートの体制、持ち込み禁止物、制服や身だしなみなどについて語ってくれた。ユーモアも交えていて憧れの人になった。

「でね、天石さんに分かってて欲しい事と謝らなければならないことがあって」

私の背筋が無意識にピンと張る。

「さっき、うちには男子寮と女子寮と特別寮があるって話したわよね。特別寮は、ある男子2つ女子2つの4つのグループがいるとも」

「はい……」

「その特別寮に、入ってもらえないかしら?」

えぇぇ?!特別寮に私が入寮すると仰いました?

「特別寮って聞こえたんですけど、聞き間違えですよね」

「間違いじゃないわ」

間違いではないの?!

「転校生が入る予想もしてなかったものですから、女子寮に空きが無いんです。ごめんなさい」

申し訳無さそうに頭を下げる副校長先生を真顔で私は見つめた。

「ええと、その、女子グループの方に入れるんですよね」

「それが、女子グループの寮は、収容人数が少ないのよ。オーバーになってしまうからね。だから、天石さんには、男子グループの寮に入ってもらうわ。こっちは12人グループなんだけど、13人が最大収容人数で1人まだ入れるの」

「男子グループの方?!」

「本当にごめんなさい。お風呂も生活用品も部屋も別々にしてあるから、これでいいかしら」

り、理解できないっ……。でも、「嫌です」とか言っちゃったら、副校長先生は困っちゃうよね。

「はい。まあ、大丈夫だと思います」

「天石さん、ありがとう。こちらで色々考えておくわ」

私はしばらく放心状態に陥っていた。男子。それだけが、私にとっては恐怖なのにな。OKしちゃったからには、頑張るしかないけど。

私はフラフラしながら教室に向かった。『2年菫組』の表示を見つけ、肩が縮こまる。

ここだ。隙間からそぉっと中の様子を覗く。

「おはようございます」

「あ、香里奈様!ご機嫌よう」

「まあ、きゃぁぁ♡glowの方達よ〜!美形揃いだわぁ」

「顔面偏差値がすごいのよね♡私の推しのエメラルド君、尊いわ〜」

黄色い声……。青春を思いっ切り楽しんでいそうな感じだ。

そして、女子みんなが色めき立つ(私は見ているだけ)、副校長先生が言う2つのグループのどちらかを見てみる。

うん、キラキラしてる。それぐらいしか言えない。私、感性が無さすぎかな?

その内、1人の男子が私の方をチラリと見た。本当に少しだけだったけど何て言うんだろう、いきなりドキドキしてきたというか……。

ううん、違うよね。緊張しているだけのことだ。

『ガラッ』

音を立てて開いてしまった扉に、クラス全員が私と……?

「おはようございます、皆さん。昨日は眠れましたか?」

先生だ。

「いいえ、全く眠れなかったです。飼っているラグドールに深夜に起こされて、そのまま1時間ぐらい眠れなかった。だから2時間読書してました」

笑いながら喋った子を、みんなが「あはは、華鈴ちゃん、大変だったね」と慰めていた。彼女は、華鈴っていう名前なんだな。華に鈴って、美しい……。見た目も凛としていて素敵!

「ご苦労様でした」

労うにしてはちょっと嫌味を含んだ声の持ち主を見た華鈴ちゃんは、俯いた。華鈴ちゃんはさっきの雰囲気とはまた違っていた。目の睫毛の影が更に濃くなっていた気がした。

「さあ皆さん!授業の始まりですよっ!席に着いて着いて!転校生の紹介しますよ〜」

そんな気まずさも知らず、先生は着席を促していた。

「転校生?どんな子でしょうね〜」

「あの子じゃないかしら?黒と紫の髪の女の子」

私の黒と紫の髪の毛は、派手なような地味なような曖昧すぎる色だ。

「見て〜、あのお姉ちゃん、お姫様みたい」とか小さい女の子に言われることがある。「お世辞言わなくていいんだよ〜。そもそも私はお姫様にはなりたくない」って、変に心の中で返す事がいっぱいだ。

「私はっ。天石咲希です。父の転勤があって、この学校に編入することになりました。好きなことは」

あれ、好きなこと考えてきてなかった。お父さんお母さんに習い事させてもらってきたけれど、イマイチ趣味が見つからない。小学校でも、休み時間はぼんやりして階段をぶらぶら歩くだけ。休み時間が削れても何とも思わなかった。

「よろしくね〜」

「好きな猫の品種、教えて」

「何の小説が好き?」

「インターネットいじるの得意?」

みんなは、私の大失敗も軽く受け止めてくれた。ちょっと胸を撫で下ろす。

「はいはい、お時間でーす!じゃあまず、練習問題解いてみて。先生丸つけしに回るよ」

そんな風に、授業は和気あいあいと進んで行った。朝にあったあの出来事以外、全てが平和だ。

休み時間が終わり、また授業に戻り、そしてランチの時間になる。

「伊集院様〜。ランチのお時間ですわ!」

「あら、新しいメニューがあるわ」

「えっ!それはチェックしなければいけませんわね。お、美味しそうです」

煌輝の女子は、グループをつくってその輪から絶対に離れないんだね。私はどこに行ったらいいのか……。

「天石さ〜ん」

後ろから呼びかけられ、私は振り向いた。

「一緒にご飯食べましょう」

華鈴ちゃんが、食堂の入り口の陰にいた。私もそれに交ぜてもらえる?

「あ、はい!華鈴ちゃん、だよね」

「うん。よろしくね、咲希ちゃん!」

名前呼びに嬉しくなる。

「咲希ちゃんは、どの猫が好き?猫飼ってる?」

「猫は飼って無いの。でも、祖父母の家にいるペルシャ猫は、私に懐いてくれるんだ」

「猫、イイよねっ!私の家、猫の屋敷って呼ばれているの。お父様が、ペットショップの社長でね」

社長の娘。令嬢ということか。

「令嬢っ……!すごいっ」

「ううん、全く。私は下層だもの。それに、すごいとしたら、お父様」

「あのねぇ、目障りなんですけど」

な、何。振り向くと、伊集院麗香さんが、いた。

「貴方が編入生さん?ふぅん」

別のテーブルで、男の子達のひそひそ声が聞こえた。

「やばいぞあいつら。伊集院様に目を付けられたら、学園生活終わりと言ってもいいほどだからな」

そうなの……っ?!つまり私、編入初日にして退学ということになるの?

だとしたら、前の学校はもうやめたし、煌輝まで退学ってことは、もう一回試験を受けなくてはいけない?!

これじゃあ家族に迷惑かけてばっかりだ。父母もお姉ちゃんも弟も優しいから怒られはしないと思うけど、やっぱりコワイ。

「私の仲間にならない?」

私が、麗香さんの、グループに?

「私の仲間になれば、学園生活はより華やかなものになりますわ。グループから追い出したりするのは、ルールを破った時だけ。乱暴にはしませんわ。これ以上はないほど……いえ、これ以上とは申しませんが、多大なる名誉ですわよ」

そうかもしれないけど、私は嫌。それに、『グループから追い出したりするのは、ルールを破った時だけ』って、ルールを破っても破らなくても、酷い仕打ちをされるのは同じなのでは……。

いや、でも、断ったら断ったで、色々されそう……。うう、どれ選んでも、同じじゃん。

「い、いつまでに、決めればよろしいのでしょうか」

「期限を決めて下さいと?そんなに入るのが嫌なのかしら」

「いえっ。私みたいな地味な人が、キラキラしたグループに入っていいのかと」

麗香さんは、「遠慮はいらないわ」と言うように、こっちに手を差し伸べた。

「謙遜しなくていいのよ」

その時、華鈴ちゃんが私の肩にちょっと触れた。

「伊集院様。無理にグループへの加入を勧めるのは、どうなのでしょうか」

華鈴ちゃん。言っちゃって、いいの……?

いくら私のためだからといって、そんなに無理はしないでほしい。

「あんたみたいな下層が、よーく言えるわねぇ」

さっきまで甘い目をしていた麗香さんは、目の色を変えた。

「底辺さん達は、黙って大人しくしてればいいのよ」

「あのっ」

言葉を遮ってしまったけど、私は思い切って言った。

「グループには入りません」

「なぜ?」

「麗香さんは、キラキラしてて高貴で美しい人です。でも、まだ、本当に!入れる自信が無いんです。許して、もらえますでしょうか」

「期限を決めてあげてもいいわよ。今日含めて、あと一週間で決めなさい」

良かった……。そう思いながらも、ハッとする。それまでに、選択しなければならないんだ。

私、甘すぎた。もっと考えれば良かったのに。今更言ったって、何も変わらないだろうけど。

「じゃあ、さようなら。朱鷺さんは、明日の朝、裏庭来て」

私を庇ってくれた華鈴ちゃんが、もしかして、呼び出しを?なら、私が全て悪い……!

「だ、ダメです!華鈴ちゃん」

「え?」

華鈴ちゃんは私を不思議そうに見つめて、言った。

「分かりました、伊集院様。明日の朝、裏庭にお伺いします」

華鈴ちゃん、本当に、いいの?暴力振るわれたりするかもしれないのに、それでも?

麗香さんが去った後、不安な私に向かって華鈴ちゃんは告げた。

「大丈夫だよ。助っ人がいるの」

お金持ちのお家の娘だから、ボディガードとかが付いてるのかな。それでも、心配なのに。

「武道とかもバッチリだから、本当に、安心してね。人を論破する学習だってお父様から受けてるんだから」

ふふんと華鈴ちゃんが言う。論破する学習を受けている?!やっぱり、世界が違うな。お金持ち、ってだけじゃなくて。

私もこの学園の一員になったから、絶対に馴染んでみせるぞ……。