気がつかないで

予定時間ギリギリに幼稚園に着くことができた俺は、先生に声をかけた。
「すみません。桃乃の迎えに来ました」
「あ、一条さん!ちょっと待っててくださいね。桃乃ちゃん連れてきます」
そう言って先生は、桃乃のいる教室に行った。
数分後、教室から桃乃が駆け足で出てきた。
「ママー!」
そう大きな声で言いながら、俺に抱きついてきた。
俺は優しく桃乃を抱きとめる。
「ははっ。今日は桃乃元気だね。いいことでもあったのかな?」
そう聞くと、桃乃は目を輝かせて言った。
「桃乃ね!今日ママの絵描いた!!」
そう言ってリュックから一枚の絵を取り出した。
俺が料理をしている時の絵かな?
かわいすぎる…。
「上手だね。桃乃の絵は上手だ」
「ふふーん。それ前にも聞いたよ!先生も、桃乃の絵が上手だって!!」
どうやら絵を褒められて上機嫌のようだ。
俺は桃乃の頭を優しくなでた。
「よかったね」
すると、他の園児たちがお見送りにと来てくれた。
「桃乃ちゃんのママだー!」
「抱っこ抱っこ!!」
俺を見つけた途端、俺に近寄ってきた。
そんなみんなに嫉妬したのか、桃乃は俺の腕をグイッと引っ張った。
「今からママと帰るんだもん!ダメー!」
「やだー!遊ぶんだもん!」
俺はその様子を見て、くすくすと笑った。
子供っていうのは素直でかわいいな。
でも、そろそろ桃乃の機嫌が悪くなっちゃうかな?
俺は園児の子たちに、にこっと笑いかけて言った。
「ごめんね。俺は今日は家に帰ってやることがあるから。また遊ぼうね!」
「え〜」
俺がそういうと、残念そうにしながらも離してくれた。
「桃乃、おいでー」
俺の足元をついてくる桃乃がかわいくて、思わず笑ってしまった。
そして、幼稚園の門を出ようとした時——。
「桃乃〜!じゃーな」
いつものようにお見送りに男の子が来てくれた。
きれいな茶髪に灰色の瞳、子供といえどきれいな顔立ち。
ヘラッと笑うその男の子は、築城壮佑(つきしろそうすけ)くん。
桃乃といつも仲良くしてくれてるから、覚えてるんだよね。
初めの印象通りとても落ち着いた優しい子で、おっとりしたところがかわいい子だ。
「うん!また明日遊ぼ!」
「うん!」
壮佑くんとハイタッチをして、俺たちは門を出た。
それから、車に乗って桃乃のシートベルトをしめる。
その時ふと思った。
「そういえば壮佑くんって、夕方まで必ずいるよね?お迎え遅いのかな〜?」
俺の問いに、桃乃は頷いた。
「なんかね、お兄ちゃんが学校終わってからお迎え来るんだって」
「へ〜。じゃあ、大きいお兄ちゃんなんだね〜」
基本的に迎えに来るのは親だが、高校生以上なら迎えに来ていい決まりになっている。
5歳と高校生ってことは、最低でも11歳くらい離れてるってことか。
「うん!桃乃、一回だけ見たことあるよ!えっとね、背がたかーくて髪が黄色だった!!」
金髪ってことかぁ。
今の高校生はやっぱり荒れてるんだろうか。
霜降くんといい、朱雀くんといい。
染めてる子が多い気がする。
「教えてくれてありがとね。じゃあ、帰ろっか」
桃乃が頷いたのを見て、俺は運転席に座った。
ーーーーー
その夜、幼稚園では1番最後に壮佑のお迎えに来た男の子がいた。
「凛兄〜」
トテトテと小さな足で霜降凛に近寄ってきた壮佑。
そんな弟の姿を見て、優しい眼差しを向けた。
「おつかれ。帰るか」
凛は壮佑を抱き上げた。
壮佑は笑顔で凛に言った。
「あのね、今日は桃乃がはやお迎えだったんだぁ」
「へ〜。桃乃ちゃんの親ってなんの仕事してんの?」
壮佑は小首を傾げた。
「わかんない」
「…そっか」
凛が桃乃の親がとあだと知るのは、まだもう少し先の話。