アイスブルク城の食堂に、賑やかな声が響く。
フランツ様の意向で、かしこまって食事をとるのはやめ、和やかな歓談と共に料理を楽しんでいた。
「フランツ様はご存知ないと思いますが」
弾むモニカの声に、フランツ様も私もそちらを見る。
「ニーナ様はドレスの裾をたくし上げて、戻られたフランツ様の元へ駆けて行かれたのですよ! 愛です! モニカは感動いたしました!」
「モ、モニカ! それは内緒にすると……約束したのに……」
フランツ様の前であの時の話をされてしまい。
私は羞恥でうつむく。
すると今度は、ハンスが話し始めた声が聞こえた。
「フランツ様は、戦さの前に盛大な愛の告白をされていらっしゃいましたね。ニーナ様を救う為の最愛の嘘に、深く感銘を受けました」
「ハ、ハンス! 他の従者達もいる前で他言するなとあれほど……」
その言葉に顔を上げると、今度はフランツ様が照れたように髪を掻き、焦っていらっしゃる様子が見えた。
そんなフランツと私の視線が不意に重なり、二人で同時に苦笑する。
こんな穏やかな時間が再び訪れた事に、私は感謝の気持ちでいっぱいだった。
食事の後、庭師のトーマンが美しく咲いた花を私とモニカに届けてくれた。
トーマンはモニカの旦那様で、三十一歳になる赤毛の男性だ。モニカも同じ髪色をしており、二人とも明るい性格の似た者夫婦だった。
「トーマン、有り難う。とても綺麗ね」
美しいバラを見つめる。
花を贈られたのが初めてだった私は、感謝を込めてトーマンにお礼を告げた。
その後にふと隣を見ると、フランツ様が口元に手を当て、何か考え込むような仕草をされている。そして、午後から行く予定だったあの湖への散歩を取り止めにしてしまった。
「ニーナ、少し用事ができた。すまないが、湖に行くのはまたの機会に」
「は、はい……」
そしてすぐに食事の席を立たれて、城の外へとお一人で馬を走らせて行った。
なにか、フランツ様のご気分を害する事をしてしまったのだろうか。私は悩んで、モニカにそれを打ち明ける。
「ニーナ様、それはきっと……」
モニカには理由が分かったようで、彼女が声を弾ませた。
「それはきっと、男性の嫉妬に違いありません」
「嫉妬?」
「はい。私の夫からお花を受け取ったニーナ様が、あまりに喜んでおられたので、フランツ様は嫉妬されたのではないかと」
「フランツ様が?」
「はい。ご自身もニーナ様に美しい花を贈る為に、外に向かわれたのではないでしょうか」
そうだとすれば、私にはとても嬉しい事だ。
フランツ様に私が嫉妬心を抱いてもらえるなんて……。
自分では考えもつないモニカの言葉に、胸の奥でまた鼓動が大きく跳ねるのを感じた。
しかし夕刻にお戻りになったフランツ様は何も持ってはおらず、私がフランツ様に花を贈ってもらえる事はなかった。
更には翌日も、またその翌日にも、フランツ様は一人でどこかへ向かい夕刻まで戻らない日が続いている。

