「冷酷非道な氷の死神と政略結婚させられたニーナは、とある侯爵によって死神の元から救い出される。その侯爵は魔力を持っていなかったが、死神の元へ嫁入りするニーナを見て一目惚れした事で、愛の力により火の魔力に目覚めた。死神と侯爵、二人の氷と炎の戦いが起こり、死神を倒した侯爵がこの国の新たな国防の要となる。ニーナは英雄となった彼に愛され、いつまでも幸せに暮らした。…………これが、この物語の結末だ」
フランツ様は今まで何度も、私の幸せな未来について語りながら、そこにご自身は含まれていないような言葉の表現を使っていた。
『ニーナ。君は、もっと大きな幸せを掴むんだ。恐らく、それはもうすぐ訪れるだろう』
『君は今より幸せになる。それを、俺は知っているから』
それは、この物語の結末を知っていたからだったのだ。
けれどこれが筋書き通りの結末だったとしても、それはもう、私の幸せなどではない。
フランツ様だって、非道な死神などではなくなっている。
「もし今この世界が、その筋書き通りに進むのだとすれば……。恐らく俺は、君と過ごした今の記憶を失くしてどこかでまた物語の設定通りの非道なフランツになってしまうのかもしれない……。それでもニーナ、君はちゃんと幸せになる」
フランツ様がまた、悲しい目をして微笑んだ。
「元の世界の俺はこんなこと絶対にしないんだけど、今の俺ならしてもいいかな」
ポツリと呟いてから、フランツ様は私の前で床に片膝をついた。そして私の手をとり、その手の甲にそっと唇を重ねる。熱く柔らかなその感触が、皮膚を通してじんわりと伝わってきた。
「幸せに。君がずっと、笑顔でありますように」
それはまるで、別れの言葉のようで……。
私の瞳の中いっぱいに溜まっていた涙が、静かに頬をつたい落ちていったのだった。

