いつもと違う通知
夜、ブログを更新したあと、
ハルトは歯を磨いてから、もう一度画面を開いた。
通知が、ひとつ増えている。
コメント数:1
でも、
いつもより表示が長かった。
はじめまして。
毎日読んでいます。
私は大人ですが、
火を使うのが怖くて、料理ができません。
家族に「それくらいできるでしょ」と言われて、
うまく説明できなくて困っています。
レンジだけで作る方法、
どうやって考えていますか?
ハルトは、しばらく動けなかった。
――大人。
――家族。
――怖い。
今までのコメントは、
「すごい」「助かりました」で終わっていた。
これは、
答えを求められている。
ハルトは、キーボードに手を置いて、止まった。
間違ったことを言ったらどうする?
えらそうに見えたら?
自分は、まだ子どもだ。
画面を閉じようとして、
でも、閉じなかった。
次の日、学校帰りにスーパーへ行く。
惣菜のタナカのお兄ちゃんが言った。
「ハルトくん、今日なに作る?」
「……失敗しにくいやつ」
「それ、いちばん大事」
鮮魚のタグチさんは、
黙って、下処理済みの魚を置いた。
「これなら、におい出にくい」
レジのウエハラさんは、
何も聞かずに、会計をしたあと、こう言った。
「考えてる顔だね」
ハルトは、うなずいた。
家で、
ユウイチがおにぎりを握っていた。
「どうした?」
「……ブログに、相談が来た」
「ほう」
「大人の人」
ユウイチは、少しだけ手を止めた。
「答えなきゃ、いけないのか?」
ハルトは考えた。
「……わからない」
「じゃあ、
わからないって書けばいい」
それは、
簡単だけど、
大事な言葉だった。
ハルトは、ゆっくり打った。
コメントありがとうございます。
僕も、火は怖いです。
だから、使わない方法を考えています。
最初は、
・爆発しない
・失敗しても食べられる
それだけ考えました。
無理にできなくてもいいと思います。
できるやり方があれば、
それで十分だと思います。
送信。
余計なことは、書かなかった。
数時間後
また、通知が鳴った。
ありがとうございます。
「できるやり方でいい」と言ってもらえて、
少し楽になりました。
明日、レンジで一品だけ、やってみます。
ハルトは、
画面を閉じて、深く息を吸った。
その日の夕飯は、
いつもより地味だった。
でも、
ユウイチは言った。
「今日のは、
なんか、落ち着くな」
ハルトは、少しだけうなずいた。
――助けるって、
すごいことじゃない。
――できることを、
そのまま置くだけ。
――それでも、
誰かには、届く。
ハルトは、
次の更新用に、メモを一行書いた。
「失敗しにくいレンジ料理」


