ハルトのレシピ。



その日、ハルトは夕飯のあとも、机に向かっていた。

洗い物は終わっている。
炊飯器も、電子レンジも、静かだ。

ノートパソコンの画面だけが、光っている。

「……ブログ、か」

学校で、クラスメイトが言っていた。
ゲームの記録を載せている、と。

ハルトは、ゲームよりも、
毎日の料理のほうが、続いていた。


ブログのタイトル欄で、手が止まる。

かっこいい名前は、思いつかない。
背伸びしたくもない。

しばらく考えて、
ハルトは、こう打った。

「火を使わないごはん日記」

それだけで、十分だった。

一日目

写真は、真正面から一枚だけ。

・電子レンジで作った豆腐ハンバーグ
・もやしとにんじんのナムル
・ごはん

文章は短い。

今日の夕飯です。
火は使っていません。
豆腐は水をよく切ると、くずれにくいです。

読み返して、
余計な言葉を消した。

「……これでいい」

次の日の夜。

更新ボタンを押したあと、
しばらくして、数字がひとつ増えた。

コメント:1

レンジだけで、すごいですね。

それだけ。

でも、
胸の奥が、少しだけ温かくなった。


翌日、スーパー。

惣菜コーナーのタナカのお兄ちゃんが言った。

「なあジンくん、
レンジで豆腐ハンバーグって、
どうやるんだ?」

ハルトは一瞬、迷ってから答えた。

「……ブログに、書きました」

「マジで?」

鮮魚のタグチさんも、
少しだけ顔を上げた。

「見る」

それ以上は、言わなかった。


ウエハラさんが、レシートを渡しながら言った。

「最近、文章も書いてる?」

ハルトは驚いた。

「……なんで?」

「手が止まってる人の顔じゃないから」

ハルトは、少し考えてから言った。

「料理の、日記です」

ウエハラさんは、うなずいた。

「それは、続くね」


ユウイチは、画面をのぞいて言った。

「これ、お前が書いたのか」

「うん」

「……読みやすいな」

それは、
初めてもらった具体的な褒め言葉だった。


更新は、無理しない。

作ったものだけ。
失敗した日は、失敗と書く。

加熱しすぎました。
次は、時間を短くします。

コメントは、少しずつ増えた。

同じ方法で作れました
子どもと一緒にやってみます
火を使わないの、安心ですね


画面を見ながら、ハルトは思った。

――これは、
料理を見せたいんじゃない。

――自分の生活を、
そのまま置いているだけだ。

誰かが拾ってくれたら、
それでいい。

その晩、
ユウイチはいつもより丁寧に、おにぎりを握った。

「明日、何作る?」

ハルトは答えた。

「……うまくいったら、書く」

それで、十分だった。