ハルトのレシピ。

最初の夜、ユウイチがキッチンに立った。

炊飯器で炊いた白米。
海苔。
塩。

「……今日は、おにぎりでいいか?」

「うん」

ハルトはそう答えたが、その目はキッチンの奥を見ていた。

次の日の夕方、ユウイチが帰宅すると、部屋から電子レンジの音が聞こえた。

「え?」

慌てて覗くと、ハルトが真剣な顔でレンジの前に立っている。
テーブルには、耐熱皿、ラップ、野菜、卵。

数分後。

「できたよ」

出てきたのは、ふわっとした卵蒸しと、野菜のおかず。
火は使っていない。包丁も最小限。
炊飯器では、ご飯と一緒に別皿で蒸した鶏肉があった。

「……これ、全部?」

「うん。ネットで調べた」

ユウイチは、しばらく言葉を失った。

それから、ハルトは自然に料理担当になった。

電子レンジ。
炊飯器。
オーブントースター。

それだけで、朝ごはんも、弁当も、夕飯も作った。

近所の人が驚き、担任の先生が目を丸くし、
ユウイチは毎晩、息子の背中を見ながら思う。

この子は、母親がいなくなった世界を、
自分の手で、ちゃんと生きようとしている。

ユウイチができるのは、
おにぎりを握ることと、
隣で一緒に食べることだけだった。

でもそれで、今は十分だった。