わたしの秘密のキューピット


「楓真ー! 早くボール」

 バスケットコートで待っているクラスメートに呼ばれて、高橋くんの視線が逸れる。

 そのまま行ってしまいそうになる彼の背中を見つめていると、ユーコがわたしにふわっと肩をぶつけてきた。

「紗良ちゃん、お礼」

 あ、そうか。お礼。

「あ、あの……! ありがとう」

 急いで息を吸い込んで吐き出すと、コートで待っているクラスメートにボールをロングパスした高橋くんが肩越しに振り向いた。

 無言で頷いた高橋くんが、少し微笑む。

 数日ぶりに見た彼の笑顔に、胸の奥がきゅっとした。

「ノートだけじゃなくて、ジャージ貸してもらったお礼もしなきゃね」

 ふふっと楽しそうな笑い声が聞こえてくる。

 隣を見ると、ユーコが肩にかけられた高橋くんのジャージの袖を引っ張りながら、今までにないくらい緩んだ顔でにやけていた。

 わたし以外誰にも見えてないからいいけど、せっかくの美人が台無し。

「にやけすぎ」
「だって、にやけちゃうでしょ」

 ジャージの袖をからかうように引っ張られて、わたしの口元もほんの少しにやけてしまう。

 高橋くんがかけてくれた学校指定のジャージは、わたしのものと同じ素材のはずなのにやけに温かい。

「やっぱりわたし、高橋くんのこと好きだ……」

 三角にたてた膝を腕で抱き寄せると、そこに額を引っ付ける。

 わたしのひとりごとに、ユーコは「うん」と答えただけで、笑ったりもからかったりもしなかった。