わたしの秘密のキューピット


 ジャージの袖を引っ張って両手を擦り合わせていると、男子が使っているバスケットボールが女子側のスペースにこぼれて転がってきた。

 床に浮いているユーコの足の下をすり抜けて、腰の横にボールがぶつかって跳ね返る。

「寒いの?」

 落ちてきた声に振り向くと、高橋くんがわたしで跳ね返ったバスケットボールをちょうど拾い上げるところだった。

「あ、えっと……。少し」

 高橋くんに最後に話しかけられたのは四日前。それ以来、目を合わせてすらくれなかったのに、突然声をかけられてびっくりした。

 ひさしぶりに視線を合わせた高橋くんは無表情で、その瞳は最後に見つめ合ったときと同じで冷たいままだ。

 温度のない眼差しに耐えきれずにうつむくと、肩の上に、ふぁさっと何かが落ちてくる。

 少し温かくなった肩に触れると、そこには大きめの紺のジャージが重なっていた。

「それ、上に着るかひざ掛けにしなよ。少しは寒いのもマシになるかも」

 顔を上げると、バスケットボールを片腕に抱えた高橋くんがそう言った。

 笑うでも、冷たく見つめてくるわけでもない。眉尻を少し下げた高橋くんは、まだ何か言いたそうにしていた。