わたしの秘密のキューピット


 次の日の朝。

「おはよう、武部さん」

 カバンの中の教科書やノートを出して机にしまっていると、登校してきた高橋くんに声をかけられた。

「お、おはよう」

 ドキドキしながら挨拶を返すと、高橋くんがわたしにちょっと笑いかけてくれる。

 うわー。どうしよう。

 高橋くんと挨拶できちゃった……!

 ニヤけちゃいそうになるのを我慢してうつむくと、高橋くんはカバンを置いて他の友達のところに行ってしまう。

 その瞬間、すぐそばでヒヤッとユーコの気配がした。

「せっかく高橋くんから話しかけてくれたのに、あれで終わり?」

 ぷかぷか浮きながら腰に手をあてたユーコが不満そうに頬を膨らませている。

「終わり……、って。挨拶できたら充分だよ」

 照れながらそう答えると、ユーコがますます頬を膨らませた。ほっぺが破裂しそう。せっかくの美人が台無しだ。

「紗良ちゃん、そんなんで満足してたらあっという間にクラス替えだよ。そろそろ次のステップに進まなくちゃ。連絡先を聞いたり、一緒に遊ぶ約束したりとかさー」
「そんなことできるほどわけないよ。だって、わたし、高橋くんとそこまで仲良くないもん。いきなり連絡先なんか聞いたら嫌がられちゃうよ」
「そうかなあ。まあ、いずれにしても、もっと会話が必要だね。挨拶だけじゃダメ。もっとくだらないことでもいいから話しかけないと。あの子たちみたいに」

 そう言って、ユーコが少し遠くを指さす。

 そこには、前田さんをはじめとしたクラスの中心グループに属する女子達がいて。高橋くんを含めたクラスの一軍男子達に話しかけている。

 女の子たちが男子達の気を惹きたいと思ってるのは、誰の目にもあきらか。

 男子達たちのほうも、声をかけられてまんざらではなさそうだ。