前髪、オッケー。制服のリボンもスカートもオッケー。クッキーのラッピングも完璧!
櫛で整えたばかりの前髪を手のひらで撫でつけると、わたしは大きく深呼吸した。
今日は二月十四日。中学生になって初めてのバレンタインデー。
わたし、武部 紗良は、好きな人に手作りのクッキーを渡すため、放課後にサッカー部の部室のそばで待っていた。
わたしが好きなのは、同じクラスでサッカー部の高橋 楓真くん。クラスの中心グループにいる彼は、クラスメートの男子たちの中でも特に際立ってかっこいい。
触りたくなるくらいサラサラな髪は陽に透けると茶色に見えてキラキラだし、目元はシャープで大人っぽい。
だけど、大きく口をあけて笑ったときは八重歯がちょこっと覗いて、人なつっこくかわいく見える。
わたしはそんな高橋くんのことが、中一の初め頃からずっと好きだった。だけど、いつもただ見ているばかりで、まともに話せたのは一度だけ。
三学期最後の席替えで奇跡的に高橋くんと隣同士の席になれたのに、せっかくのチャンスをもう一ヵ月も無駄にしている。
大好きな高橋くんが近くにいると思うと、ドキドキして横を見ることもできないのだ。
それに、明るくて優しい高橋くんの周りには、いつも男女問わず友達がたくさん。
そんななかに、クラスでも目立たないわたしなんかが入っていけない。
だけど、もうすぐ中一の学年が終わる。
クラス替えをして高橋くんとクラスが離れたら、目立たないわたしは確実に忘れ去られてしまう。
だから決めたんだ。
勇気を奮い起こして、バレンタインデーに人生初めての告白をしよう、って。



