贄と呼ばれた少女の、幸せ


「そのような児戯などせぬよ」

 腹に響く低音でくつくつと笑いながら、何もない空間に突然ぬっと大きなものが姿を現した。

「我はネビュラと名付けられている。気軽にネビィちゃんと呼ぶがよい」

 力強く重々しい声で名乗ったのは、星空の毛並みを持つ巨大な狼。ニナは頭の中で一生懸命用意したお礼の言葉を声に出しながら、勢いよく頭を下げた。

「よろしく、おねがいします、ネビィちゃん。ニナと、いいます。運んでいただいたと、聞きました。ありがとうございました……!」

 ニナは特別驚いたり、怯えたりせずに現状を受け入れる。ニナは、起こったことを受け入れそのまま覚えることをずっと習い性にしていて、そして狼を知らなかった。

「ネビュラぁー……ネビィちゃんって、なんだよ……」

「ヒトは愛称を使うのだろう? 我はニナを歓迎している」

「ああ……もう……いいんだけどさ……」

 くつくつと笑うネビュラ、苦笑を浮かべ脱力するヒースクリフ、頭を下げ続けているニナ。

 ふたりと狼の新しい生活が、今、始まった。