◆
「わあ、見違えたね! 姉さん」
新居に入ったギルの第一声に、メリーベルの頬がだらしなく緩んだ。ギルも修繕前に一度ここの状態を見ているため、今回の休暇は相当覚悟をしていたらしい。
ここへ来て一ヶ月。ギルに気持ちよく過ごしてもらおうと頑張ったかいがあるというものだ。
「でしょ? お姉ちゃん頑張ったのよ。まだ水回りと寝室だけだけどね。あ、二階の左奥がギルの部屋ね。荷物が結構多いわね。重かったでしょう」
「大丈夫。ぼくもう十三歳だよ。力だってずいぶんついたんだから」
そう言ってギルは右腕の袖をまくり、ぐっと力を入れて見せる。細くともしっかり鍛えているのが分かり、メリーベルの胸が誇らしさでいっぱいになった。
「小さかったギルがこんなに立派になって。お姉ちゃん嬉しい」
「姉さんババくさい。まだ二十一歳なのに」
「あら、いかず後家としては十分よ」
「ロブソン家でいい出会いはなかったの?」
「お姉ちゃんモテないからねぇ。とくにこれといった縁談もなかったわ」
ヴィクターとの契約結婚を知らない異父弟のギルは、姉がロブソン家で働いていたと思っている。姉の実父が高貴な出であることだけは知っていて、寄宿学校もその関係で入学できたと思っているのだ。
「ふーん。まあ、ぼくが早く大人になって、面倒をみてあげるからいいけどさ」
「あら、頼もしい。期待してるわね。まずは食事の支度を手伝ってもらおうかな」
「まかせて!」
満面の笑みで部屋に向かうギルを見送ると、すべてが収まるべきところに収まったような気がした。
彼もいずれ大人になり、可愛いお嫁さんを連れてくるだろう。
それまでにはこの家はもっと住みよくなってるだろうし、家族がもっと増えても問題ないはずだ。
海が見えるこの家は、母と養父の墓も近く、町への利便もよい最高の立地だ。
メリーベルにとって今は長期休暇のようなもので、修繕が落ち着いたらまた近くで仕事を探そうと考えている。
ヴィクターとの契約でロブソン家から毎月少なくない報酬は入るけど、それは永遠ではないだろう。契約終了時からメリーベルが亡くなるまでという約束でも、彼が新たに妻を迎えれば離婚した元妻への送金を止めることは十分に考えられるし、むしろそれで当然だと思っている。
もともと断ったのに当然の報酬だと言って強行されてしまったものだから、実際に手を付けることはないだろう。今は上流階級の貴婦人として、身なりを整える必要はないのだから。
落ち着いたら送金を止めてもらい、送ってもらったものもすべてを返そうと決めていた。
その時二階からギルの声が聞こえた。
「姉さん、この部屋はまだ手を付けないの? いい部屋なのに」
「わあ、見違えたね! 姉さん」
新居に入ったギルの第一声に、メリーベルの頬がだらしなく緩んだ。ギルも修繕前に一度ここの状態を見ているため、今回の休暇は相当覚悟をしていたらしい。
ここへ来て一ヶ月。ギルに気持ちよく過ごしてもらおうと頑張ったかいがあるというものだ。
「でしょ? お姉ちゃん頑張ったのよ。まだ水回りと寝室だけだけどね。あ、二階の左奥がギルの部屋ね。荷物が結構多いわね。重かったでしょう」
「大丈夫。ぼくもう十三歳だよ。力だってずいぶんついたんだから」
そう言ってギルは右腕の袖をまくり、ぐっと力を入れて見せる。細くともしっかり鍛えているのが分かり、メリーベルの胸が誇らしさでいっぱいになった。
「小さかったギルがこんなに立派になって。お姉ちゃん嬉しい」
「姉さんババくさい。まだ二十一歳なのに」
「あら、いかず後家としては十分よ」
「ロブソン家でいい出会いはなかったの?」
「お姉ちゃんモテないからねぇ。とくにこれといった縁談もなかったわ」
ヴィクターとの契約結婚を知らない異父弟のギルは、姉がロブソン家で働いていたと思っている。姉の実父が高貴な出であることだけは知っていて、寄宿学校もその関係で入学できたと思っているのだ。
「ふーん。まあ、ぼくが早く大人になって、面倒をみてあげるからいいけどさ」
「あら、頼もしい。期待してるわね。まずは食事の支度を手伝ってもらおうかな」
「まかせて!」
満面の笑みで部屋に向かうギルを見送ると、すべてが収まるべきところに収まったような気がした。
彼もいずれ大人になり、可愛いお嫁さんを連れてくるだろう。
それまでにはこの家はもっと住みよくなってるだろうし、家族がもっと増えても問題ないはずだ。
海が見えるこの家は、母と養父の墓も近く、町への利便もよい最高の立地だ。
メリーベルにとって今は長期休暇のようなもので、修繕が落ち着いたらまた近くで仕事を探そうと考えている。
ヴィクターとの契約でロブソン家から毎月少なくない報酬は入るけど、それは永遠ではないだろう。契約終了時からメリーベルが亡くなるまでという約束でも、彼が新たに妻を迎えれば離婚した元妻への送金を止めることは十分に考えられるし、むしろそれで当然だと思っている。
もともと断ったのに当然の報酬だと言って強行されてしまったものだから、実際に手を付けることはないだろう。今は上流階級の貴婦人として、身なりを整える必要はないのだから。
落ち着いたら送金を止めてもらい、送ってもらったものもすべてを返そうと決めていた。
その時二階からギルの声が聞こえた。
「姉さん、この部屋はまだ手を付けないの? いい部屋なのに」



