「一番多いのは、不登校になったんじゃないかっていう噂ですね……。確かに実里ちゃん、仲が良いのはわたしともう一人の友達ぐらいだったから、そう噂されてもおかしくないかもって思ったんですけど……」
翠ちゃんは友達が不登校じゃないかと噂されていることを憂いているというよりも、他のことで怯えている様子できょろきょろと視線を泳がせた。
「実里ちゃんが突然不登校になるなんて信じたくなくて、昨日、実里ちゃんの家に行ってみたんです。ご近所で、家の場所は知ってたから。夕方四時頃だったかな……。外は薄暗くなり始めてて、お母さんから『もうすぐ夕飯だから実里ちゃんの様子見たらすぐ帰ってきてね』って言われてたんです」
翠ちゃんが夕方に一人で友達の家に訪ねていくところを想像する。住宅街の間の道を果敢に歩いていく女の子の背中が、夕暮れ時の光を浴びて揺れる。それ自体、特におかしなことではなくて、翠ちゃんの友達思いな優しさを感じた。
「実里ちゃんの家に着いて、インターホンを押そうとしたんです。でもその直前に、二階の実里ちゃんの部屋の窓のカーテンの隙間から、白い影が現れるのを見たんです……」
ぶるぶると震えながら、昨日のことを振り返る翠ちゃん。瞳にははっきりと恐怖の色が浮かんでいて、はーちゃん先生がそっと彼女の肩を抱いた。
それにしても、と私は不思議に思う。
「白い影って何? 実里ちゃんじゃなかったの?」
そう。彼女が「実里ちゃんの影」ではなく、「白い影」を見たと表現したのが不思議だった。実里ちゃんの部屋の窓に映るのは実里ちゃんではないのか。なぜ、翠ちゃんは「白い影」と言ったのか。
私の質問に、翠ちゃんは「分からないの」と声を震わせながら答えた。
「わたしが見たのが、『白い影』だったんです。姿形は人間だったんですけど、か、顔が……なくて」
「顔がない?」
私とはーちゃん先生が同時に声を上げた。それぐらい、翠ちゃんの言うことは衝撃的で、即座には理解し難かった。
「はい……。最初は見間違いかな、と思ったんですけど……その影をじっと見てもやっぱり顔がなかったんです……! わたしが見ていることに気づいているかのようにゆらゆら揺れて、それがこわくて仕方なくて、すぐに逃げ帰りました」
「そんなことがあったんだね……」
その時の翠ちゃんの気持ちを想像すると、背筋に冷たいものが這うような心地がした。
せめて親や友達と一緒なら、まだ恐怖心も和らいだかもしれない。でも、小学生の翠ちゃんがたった一人でこわいものを見てしまって、心にトラウマを負わないでいるほうが難しい。私は中学生だけど、たぶん私でも同じように逃げてしまうと思う。幽霊なんて信じないけれど、それらしいものに遭遇したら、その場で腰を抜かしてしまうかもしれない。
ちゃんと逃げて帰れただけ、翠ちゃんはすごい。
翠ちゃんは友達が不登校じゃないかと噂されていることを憂いているというよりも、他のことで怯えている様子できょろきょろと視線を泳がせた。
「実里ちゃんが突然不登校になるなんて信じたくなくて、昨日、実里ちゃんの家に行ってみたんです。ご近所で、家の場所は知ってたから。夕方四時頃だったかな……。外は薄暗くなり始めてて、お母さんから『もうすぐ夕飯だから実里ちゃんの様子見たらすぐ帰ってきてね』って言われてたんです」
翠ちゃんが夕方に一人で友達の家に訪ねていくところを想像する。住宅街の間の道を果敢に歩いていく女の子の背中が、夕暮れ時の光を浴びて揺れる。それ自体、特におかしなことではなくて、翠ちゃんの友達思いな優しさを感じた。
「実里ちゃんの家に着いて、インターホンを押そうとしたんです。でもその直前に、二階の実里ちゃんの部屋の窓のカーテンの隙間から、白い影が現れるのを見たんです……」
ぶるぶると震えながら、昨日のことを振り返る翠ちゃん。瞳にははっきりと恐怖の色が浮かんでいて、はーちゃん先生がそっと彼女の肩を抱いた。
それにしても、と私は不思議に思う。
「白い影って何? 実里ちゃんじゃなかったの?」
そう。彼女が「実里ちゃんの影」ではなく、「白い影」を見たと表現したのが不思議だった。実里ちゃんの部屋の窓に映るのは実里ちゃんではないのか。なぜ、翠ちゃんは「白い影」と言ったのか。
私の質問に、翠ちゃんは「分からないの」と声を震わせながら答えた。
「わたしが見たのが、『白い影』だったんです。姿形は人間だったんですけど、か、顔が……なくて」
「顔がない?」
私とはーちゃん先生が同時に声を上げた。それぐらい、翠ちゃんの言うことは衝撃的で、即座には理解し難かった。
「はい……。最初は見間違いかな、と思ったんですけど……その影をじっと見てもやっぱり顔がなかったんです……! わたしが見ていることに気づいているかのようにゆらゆら揺れて、それがこわくて仕方なくて、すぐに逃げ帰りました」
「そんなことがあったんだね……」
その時の翠ちゃんの気持ちを想像すると、背筋に冷たいものが這うような心地がした。
せめて親や友達と一緒なら、まだ恐怖心も和らいだかもしれない。でも、小学生の翠ちゃんがたった一人でこわいものを見てしまって、心にトラウマを負わないでいるほうが難しい。私は中学生だけど、たぶん私でも同じように逃げてしまうと思う。幽霊なんて信じないけれど、それらしいものに遭遇したら、その場で腰を抜かしてしまうかもしれない。
ちゃんと逃げて帰れただけ、翠ちゃんはすごい。



