数日前からリプやDMが届いていることは知っていた。
心に余裕がなくて、返信はあまりできていなかったけれど。
「みつけた」などと冷やかしのようなリプも混ざっていて、胸をチクリと針で刺されたような気分に陥る。
DMではニュースで取り上げられた翠ちゃんに似ている人を見たという人から写真が送られてくることもあったが、どれも他人の空似だった。
それもそうだろう。会ったこともない人物に似ている人間を見つけるなんて、至難の業だ。
今通知が来た「雪乃」という方からのリプを見た瞬間、今度はDMの通知も現れた。
雪乃さんがDMをしてくれたのだろう。
あまり期待することなくDMを開くと、「先ほどリプを送った雪乃と申します。羽沢翠さんに似ている方を見つけたのですが……」というメッセージと共に、一枚の画像が送られていた。
「なによこれっ……!」
添付されていた画像を見た私は、「うっ」と吐き気を覚えて、両手で口元を覆う。
画像には、真っ暗な闇の中に佇む女の子の後ろ姿が写っていた。
確かに、背丈や髪型は翠ちゃんそのもので、はーちゃん先生が最後にレッスンで会った日に着ていたと言う服と同じような服を着ているように見えた。
それだけでも驚いたが、何より恐ろしかったのは、翠ちゃんと思しき少女の全身が白く染まっていたことだ。
「なんでこんなに真っ白に……」
画像の加工で白くなっているとか、光が反射して白くなっているというわけではない。
翠ちゃんの全身だけが、白粉を塗りたくったように真っ白だった。
怖くなって、全力でその場から駆け出した。
前後左右から誰かの視線を感じるような気がして、耳を塞ぎながら走る。
はーちゃん先生の自宅に着くと、狂ったようにインターホンを鳴らした。
「先生、先生っ!」
誰かに追いかけられているわけでもないのに、人ならざるものに今にも襲われそうな気がして、必死だった。
はーちゃん先生がすぐに玄関から出て来てくれて「茉白ちゃん何かあったの!?」と声をかけてくれた。
「す、翠ちゃんが白くなって……」
「どういうこと? 翠ちゃんが見つかったの?」
「違いますっ……分からないけど、でも……!」
「落ち着いて。一旦うちに上がりましょう」
「は、はい……あの、ピアノを弾きたいです」
自分でも、支離滅裂なことを言っていると分かっていた。翠ちゃんがいなくなってしまい、このままでは発表会で連弾もできない。ピアノを弾きたいと言ったのは、音楽を奏でていれば、少しは気分が安らぐと思ったからだ。
でも、現実は私の希望とは全然ちがうほうに動き出した。
ピアノの前に座り、五線譜を開いて鍵盤に手を添える。はーちゃん先生は、私のただならぬ様子に何も言えないのか、黙って私がピアノを弾き始めるのを見守ってくれていた。
やがて、無意識のうちに両手が動く。
最近練習を始めた、ベートーヴェンの『月光』。
不穏な何かがしのび寄るような冒頭の音楽が静寂に満ちた室内に響き渡る。
鍵盤を必死に追いかけて手を動かしているうちに、やがて、譜面から五線譜が消えた。
「えっ!?」
肩を跳ねさせて手を止める。
私の仕草に、はーちゃん先生が「どうしたの?」と咄嗟に聞いてきた。
「が、楽譜が……真っ白に……!」
そう口にした途端、今度は目の前の光景がくらくらと回転し始める。「茉白ちゃん!」と先生が私の肩を抱いた。めまいが起きたのだと気づいた刹那、私の意識はそこで途切れた。
心に余裕がなくて、返信はあまりできていなかったけれど。
「みつけた」などと冷やかしのようなリプも混ざっていて、胸をチクリと針で刺されたような気分に陥る。
DMではニュースで取り上げられた翠ちゃんに似ている人を見たという人から写真が送られてくることもあったが、どれも他人の空似だった。
それもそうだろう。会ったこともない人物に似ている人間を見つけるなんて、至難の業だ。
今通知が来た「雪乃」という方からのリプを見た瞬間、今度はDMの通知も現れた。
雪乃さんがDMをしてくれたのだろう。
あまり期待することなくDMを開くと、「先ほどリプを送った雪乃と申します。羽沢翠さんに似ている方を見つけたのですが……」というメッセージと共に、一枚の画像が送られていた。
「なによこれっ……!」
添付されていた画像を見た私は、「うっ」と吐き気を覚えて、両手で口元を覆う。
画像には、真っ暗な闇の中に佇む女の子の後ろ姿が写っていた。
確かに、背丈や髪型は翠ちゃんそのもので、はーちゃん先生が最後にレッスンで会った日に着ていたと言う服と同じような服を着ているように見えた。
それだけでも驚いたが、何より恐ろしかったのは、翠ちゃんと思しき少女の全身が白く染まっていたことだ。
「なんでこんなに真っ白に……」
画像の加工で白くなっているとか、光が反射して白くなっているというわけではない。
翠ちゃんの全身だけが、白粉を塗りたくったように真っ白だった。
怖くなって、全力でその場から駆け出した。
前後左右から誰かの視線を感じるような気がして、耳を塞ぎながら走る。
はーちゃん先生の自宅に着くと、狂ったようにインターホンを鳴らした。
「先生、先生っ!」
誰かに追いかけられているわけでもないのに、人ならざるものに今にも襲われそうな気がして、必死だった。
はーちゃん先生がすぐに玄関から出て来てくれて「茉白ちゃん何かあったの!?」と声をかけてくれた。
「す、翠ちゃんが白くなって……」
「どういうこと? 翠ちゃんが見つかったの?」
「違いますっ……分からないけど、でも……!」
「落ち着いて。一旦うちに上がりましょう」
「は、はい……あの、ピアノを弾きたいです」
自分でも、支離滅裂なことを言っていると分かっていた。翠ちゃんがいなくなってしまい、このままでは発表会で連弾もできない。ピアノを弾きたいと言ったのは、音楽を奏でていれば、少しは気分が安らぐと思ったからだ。
でも、現実は私の希望とは全然ちがうほうに動き出した。
ピアノの前に座り、五線譜を開いて鍵盤に手を添える。はーちゃん先生は、私のただならぬ様子に何も言えないのか、黙って私がピアノを弾き始めるのを見守ってくれていた。
やがて、無意識のうちに両手が動く。
最近練習を始めた、ベートーヴェンの『月光』。
不穏な何かがしのび寄るような冒頭の音楽が静寂に満ちた室内に響き渡る。
鍵盤を必死に追いかけて手を動かしているうちに、やがて、譜面から五線譜が消えた。
「えっ!?」
肩を跳ねさせて手を止める。
私の仕草に、はーちゃん先生が「どうしたの?」と咄嗟に聞いてきた。
「が、楽譜が……真っ白に……!」
そう口にした途端、今度は目の前の光景がくらくらと回転し始める。「茉白ちゃん!」と先生が私の肩を抱いた。めまいが起きたのだと気づいた刹那、私の意識はそこで途切れた。



