警察官「初めまして。突然のことでびっくりさせてごめんなさいね。警察と話すのは初めて?」
蘭子「はい、初めてです」
警察官「それなら緊張するわよね。他にあなたの話を聞いている人はいないから、リラックスして質問に答えてね。言いたくないことは、無理に言わなくてもいいから」
蘭子「分かりました」
警察官「北島蘭子さん、あなたは先週行方不明になった羽沢翠さんと仲が良かったようですね。あと、一ヶ月前から学校をお休みされているという山田実里さんとも」
蘭子「は、はい……。あ、でも山田さんとはまだそこまで仲が良いというわけではなくて。時々話す程度でした」
警察官「あら、そうなの。他のクラスメイトの子に確認したら、三人はすごく仲良しだったって言ってたから、そうなのかと思ってたわ」
蘭子「……!! それはたぶん……みんながケイジさんに嘘をついたんだと思います。もともと、あたしと翠は確かに仲良しでした。四年生の頃から同じクラスで、よく二人で遊んでたので。でも山田さんとは、五年生の二学期になってから翠が、『実里ちゃんともっと話
してみたい』って言ってきたんです」
警察官「そうだったの。どうしてみんな嘘なんてついたのかしら?」
蘭子「それは……みんなが、あたしや翠も山田さんと同じにしたかったからじゃないかな……」
警察官「“同じにする”とは?」
蘭子「ケイジさん、ここであたしが話すことは誰にも言わないでくださいね?」
警察官「ええ、もちろんよ。警察関係者には話すかもしれないけど、一般の方には話さないわ」
蘭子「ありがとうございます。山田さんって、クラスで浮いてたんです。アニメや漫画が好きで性格がおとなしいこともあって、キラキラした女の子たちとは少し違っていて。まあそれでも、そんな子は普通にいるんですけど、ある日クラスで一番派手な女の子が、山田さんの肌の色が黒いってからかったんです」
警察官「肌の色が黒い? 山田さん、国籍は日本人よね?」
蘭子「あ、はい。地黒だったんです。夏の日焼けした肌が一年中続いているような感じです。たぶん、その派手な女子も地黒なのがそこまで気に障ったわけじゃないと思うんです。山田さんをからかう口実を探していただけで。『あんたのお母さん、黒人なんだって?』『ガイコクジンじゃん』って、心ない差別的な発言をしてました」
警察官「なるほどね……。小学生ならそういうからかい方があるかもしれないわね」
蘭子「はい……。それがだんだんエスカレートして、クラスでほとんどの女の子に無視されるようになって。流行っていた平成女児グッズの交換に、山田さんを交ぜてあげなかったり、話しかけても聞こえないふりをしたり。そんな山田さんが学校に来なくなって、山田さんをからかっていた子たちが、次にあたしや翠をターゲットにしたかったんだと思います。だから、ちょっと仲良くしかけていたあたしと翠のことを“すごく仲良しの三人組”と言ったのかなって……」
警察官「もしそれが本当の話なら、ひどいわね。ちなみに……羽沢さんは、山田さんが周囲から無視されていることを知っていたのかしら?」
蘭子「たぶん、知ってたと思います。翠は優しいから、本当は山田さんを救ってあげたかったんじゃないかな。でも、いじめっ子たちの前で大きな声を出すのは怖かったんだと思います。あたしも一緒です。だからあたしたち、山田さんには後ろめたい気持ちがありました……」
警察官「なるほど、よく分かりました。山田さんが学校に来なくなってからの羽沢さんの学校での様子はどうでしたか?」
蘭子「……ずっと、怯えているようでした。山田さんに申し訳ないって思う気持ちもあったと思います。でも、それ以上に何かに怖がっている感じで……。もしかしたらストーカー被害とかに遭ってたのかな。あたしがもっと話を聞いてあげればよかったんです」
警察官「いえ、あなたの責任ではないわ。何かに怖がっている、か。あなたはそれが何なのか、見当がつきますか?」
蘭子「何だろう……ああ、もしかしたら“まっしろ”かも……」
警察官「まっしろ?」
蘭子「翠がいなくなる直前に時々、“まっしろが”、“まっしろでだいじょうぶ”って呟いてたんです。“まっしろ”が何なのか、あたしには分かりません。もしかしたらSNSとかで出会った人物のハンドルネームなのかも。それでその人につけられてた……とか」
警察官「はあ。分かりました。いろいろお答えいただきありがとうございます。今日は疲れたでしょうから、ここまでにしましょう」
蘭子「そうしてもらえると助かります……。あたしももしかしたら、“まっしろ”にされちゃうかもしれないので……」



