ここ数ヶ月、小中学生から大人までの間で、平成女児グッズのコレクションが爆発的な流行を見せていることは、すでに多くの人が知っているだろう。SNSでも、大量のシールを買い集める人たちの画像や動画が数多く投稿されている。流行は止まるところを知らず、小中学生の間ではシールのみならず、ノートやペンケース、メモ帳といった文房具を集め、友達と交換する遊びが流行っているらしい。
その中でも、子どもたちが手にするのは、どれもきらきらとしたイラストが描かれた文房具だ。二十代の筆者は既視感を覚える。そう、平成に女児の間で流行っていた“平成女児グッズ”なのだ。
ここでは便宜上「平成女児ファンシー文具」と呼ばせてもらう。
「平成女児ファンシー文具」は間違いなく子どもたちの日常を鮮やかに色づけているが、最近、SNSではこの「平成女児ファンシー文具」をめぐり、とある噂が囁かれているのをご存知だろうか。
「平成女児ファンシー文具を交換した友人が学校を休むようになった」
「自宅を訪ねても会えない。連絡も取れない状況」
「先生にいなくなった友人について聞いても“〇〇さんはまっしろでだいじょうぶ”という意味不明なことを言われた」
「自分が持っている平成女児ファンシー文具の製造会社を調べると、⬛︎⬛︎株式会社と、社名が伏せ字になっていた」
「製造年がおかしいものがある。2005年製造のものが売られていた」
これらの噂を語る投稿が、すでに十数件確認されている。
SNSに投稿をしていない人のことを考えると、実際には同じような事件が身の回りで起きている人はもっと多いと考えられる。
この現象は偶然なのか?
何らかの人為的な力がはたらいているのであろうか。
それとも、人間を超えた存在が引き起こしたものなのか——。
筆者はかつてインタビューをした文房具メーカー、○○株式会社に関する情報を思い出した。
インタビューをしたのは、文房具メーカーの○○株式会社のオフィスで心霊現象が起きるということを嗅ぎつけて、それについての調査するためだった。それ自体、今回の「平成女児ファンシー文具」をめぐるトラブルとはなんら関係はなかったのだが、その際に、別の同業他社から転職してきたという男性(以下、Mさんとする)に話を聞いた。なんでもMさんは、2005年まで勤めていた文房具メーカーがある事件が発端で廃業したため、○○株式会社に転職して来たという。Mさんがもともと勤めていた会社で起こった“ある事件”について興味を持ち、Mさんに話を聞いた。
今それを思い出したのはほかでもない、「平成女児ファンシー文具」の噂の一つに“製造会社が⬛︎⬛︎株式会社と伏字になっているものがある”、“製造年がおかしいものがある。2005年製造のものが売られていた”というものがあったからだ。
2005年。どこかで聞いた年度であると、ひらめいた。
〇〇株式会社で話を聞いたMさんが転職する前の会社が2005年に廃業したと言っていた。
当時彼が話していた内容が、今考えると、今回の事件につながっているような気がするのだ。
ここに、その時の録音音声をもとに書き起こしたインタビュー内容を掲載する。
(※Mさんがもともと勤めていた会社は特定を避けるため、⬛︎⬛︎株式会社と表記する)
馬場「今日は〇〇会社で起こった心霊現象について、たくさんお話を聞かせてくださりありがとうございました」
M「いえ、こちらこそ。外部の方に話すことで心が多少落ち着きました」
馬場「それなら良かったです。それでですね、Mさんが前に勤めていらっしゃった⬛︎⬛︎株式会社で起きた“事件”について、教えていただきたいのですが」
M「そうでしたね。事件といっても、よくあるパワハラ事件なのですが……」
馬場「2005年といえば、パワハラが横行していた時代ですよね。今ほどハラスメントだ何だと叫ばれてもいなかった——ですよね?」
M「おっしゃる通りです。“パワハラ”という言葉自体、定着し始めた頃でした。それまでは上司による“指導”として片付けられていましたからね」
馬場「そのようですよね。それで、どんなパワハラがあって、なぜ⬛︎⬛︎株式会社は廃業することになったのでしょうか?」
M「……会社の人間が死亡したんですよ」
馬場「え?」
M「しかも、自殺でした。パワハラの主犯格だった上司と、一緒になって囃し立てていた人たちへの怨念を綴った遺書を残して。ご遺族の方が会社を訴えたことで、廃業せざるを得なくなったんです」
馬場「それは……なんというか、亡くなられた方とご遺族の方がお気の毒ですね。Mさんはパワハラの現場を見たんでしょうか?」
M「ええ、見ましたよ。実はその亡くなった同僚は、一つ上の先輩だったんです。新人の頃の僕の、教育係でもありました。優しい先輩でしたが、優しいからこそ上司の言うことに逆らえなかったんですよね……。日頃の強い叱責による指導や、頭を叩かれたり足を蹴られたりといったことは日常茶飯事。少しでもミスをすれば上半身を裸にしてお腹に『私はバカです』とマジックで書かれて、土下座させられたり……。思い出すだけでも身の毛がよだちます」
馬場「そんなことがあったんですね……。他に何か、印象に残っている出来事はありますか?」
M「その亡くなった先輩は、僕と同じ商品開発部にいたんですけどね。先輩が提案した文房具についての企画を、上司が手ひどく却下したことがあったんです。文房具の企画は確か、百種類以上のデザインを使ったメモ帳だったと思います。一つ一つに違う絵柄が描かれていて、人にあげるのも自分で使うのも楽しくなるようなものです。その先輩は子どものころ、友達の輪に入れなかった経験があったそうで。『こんなメモ帳があったら、学校で孤立しているような子も、みんなの輪の中で楽しく遊べるだろう』と言っていました。でもその企画書を見た上司は……先輩の前で、企画書をバサバサ床に落として、足で踏みつけたんです」
馬場「足で踏みつけた? それはまた、かなりひどいですね」
M「ええ、僕もそう思いました。現場で見ていた人はみんな、さすがにやりすぎと感じたと思います。でも上司は、『こんなメモ帳、デザインにどれだけコストがかかると思ってるんだ!』と先輩を怒鳴ったんです。『メモ帳は白でいいんだよ、真っ白で! 交換するもんでもないじゃねえか』と。傍から見ていても、それほど怒ることなのか? と疑問でした。先輩は悔しそうに顔を歪めて『すみませんでした』と何度も謝っていました」
馬場「もしかして先輩が亡くなったのって……」
M「はい。そのすぐ後です……。正確にはその翌日の明け方だったと思います。自宅で首を吊って亡くなったそうです……」
馬場「……やるせないですね」
M「はい……。お世話になった先輩だったのに、僕は何もできませんでした。僕だけじゃなくて、他の誰も。先輩を庇うことで、次に自分がパワハラのターゲットになるのが怖かったんですよね」
馬場「お気持ちは分かります。その事件がきっかけで⬛︎⬛︎株式会社は廃業せざるを得なくなったというわけですね」
M「そうです。もう⬛︎⬛︎株式会社はありません。でも」
馬場「でも?」
M「時折感じるんですよ、⬛︎⬛︎株式会社の存在を」
馬場「というと?」
M「自分でも何を言っているのか、おかしいというのは分かります。だけど、⬛︎⬛︎株式会社がまだこの世のどこかに存在していて、先輩の無念がないはずの⬛︎⬛︎株式会社に留まっているような気がするんです」
馬場「それは、失礼ですがMさんの妄想では?」
M「そうですね。そう思われるのも当たり前だと思います。でも、⬛︎⬛︎株式会社に勤めていた元同僚たちも同じように感じているらしいんです。⬛︎⬛︎株式会社はまだどこかに存在している。死んでしまった先輩の魂が、そこでまだ彷徨っている——」
馬場「はあ。そんなことがあるはずがない……とは、一概に言えませんね。少し顔色が悪いようですから、今日はここまでにさせていただきます。お話をしてくださりありがとうございました」
Mさんとの会話はここまでである。
この時すでに、存在しないはずの⬛︎⬛︎株式会社が、Mさんや元同僚たちの間では存在していることになっていた——それが、今回の「平成女児ファンシー文具」の事件と関係があるのかは定かではない。
だが、2005年という年、⬛︎⬛︎株式会社という存在しないはずの文具メーカー、⬛︎⬛︎株式会社の上司が口にした“メモ帳は白でいいんだよ、真っ白で!”という言葉。
すべてをつなぎ合わせると、現在小中学生の間で噂されている事件は、自殺したMさんの先輩の怨念が引き起こしている怪異なのかもしれない——と考えられるのではないだろうか。
<了>
ライター:馬場直哉
その中でも、子どもたちが手にするのは、どれもきらきらとしたイラストが描かれた文房具だ。二十代の筆者は既視感を覚える。そう、平成に女児の間で流行っていた“平成女児グッズ”なのだ。
ここでは便宜上「平成女児ファンシー文具」と呼ばせてもらう。
「平成女児ファンシー文具」は間違いなく子どもたちの日常を鮮やかに色づけているが、最近、SNSではこの「平成女児ファンシー文具」をめぐり、とある噂が囁かれているのをご存知だろうか。
「平成女児ファンシー文具を交換した友人が学校を休むようになった」
「自宅を訪ねても会えない。連絡も取れない状況」
「先生にいなくなった友人について聞いても“〇〇さんはまっしろでだいじょうぶ”という意味不明なことを言われた」
「自分が持っている平成女児ファンシー文具の製造会社を調べると、⬛︎⬛︎株式会社と、社名が伏せ字になっていた」
「製造年がおかしいものがある。2005年製造のものが売られていた」
これらの噂を語る投稿が、すでに十数件確認されている。
SNSに投稿をしていない人のことを考えると、実際には同じような事件が身の回りで起きている人はもっと多いと考えられる。
この現象は偶然なのか?
何らかの人為的な力がはたらいているのであろうか。
それとも、人間を超えた存在が引き起こしたものなのか——。
筆者はかつてインタビューをした文房具メーカー、○○株式会社に関する情報を思い出した。
インタビューをしたのは、文房具メーカーの○○株式会社のオフィスで心霊現象が起きるということを嗅ぎつけて、それについての調査するためだった。それ自体、今回の「平成女児ファンシー文具」をめぐるトラブルとはなんら関係はなかったのだが、その際に、別の同業他社から転職してきたという男性(以下、Mさんとする)に話を聞いた。なんでもMさんは、2005年まで勤めていた文房具メーカーがある事件が発端で廃業したため、○○株式会社に転職して来たという。Mさんがもともと勤めていた会社で起こった“ある事件”について興味を持ち、Mさんに話を聞いた。
今それを思い出したのはほかでもない、「平成女児ファンシー文具」の噂の一つに“製造会社が⬛︎⬛︎株式会社と伏字になっているものがある”、“製造年がおかしいものがある。2005年製造のものが売られていた”というものがあったからだ。
2005年。どこかで聞いた年度であると、ひらめいた。
〇〇株式会社で話を聞いたMさんが転職する前の会社が2005年に廃業したと言っていた。
当時彼が話していた内容が、今考えると、今回の事件につながっているような気がするのだ。
ここに、その時の録音音声をもとに書き起こしたインタビュー内容を掲載する。
(※Mさんがもともと勤めていた会社は特定を避けるため、⬛︎⬛︎株式会社と表記する)
馬場「今日は〇〇会社で起こった心霊現象について、たくさんお話を聞かせてくださりありがとうございました」
M「いえ、こちらこそ。外部の方に話すことで心が多少落ち着きました」
馬場「それなら良かったです。それでですね、Mさんが前に勤めていらっしゃった⬛︎⬛︎株式会社で起きた“事件”について、教えていただきたいのですが」
M「そうでしたね。事件といっても、よくあるパワハラ事件なのですが……」
馬場「2005年といえば、パワハラが横行していた時代ですよね。今ほどハラスメントだ何だと叫ばれてもいなかった——ですよね?」
M「おっしゃる通りです。“パワハラ”という言葉自体、定着し始めた頃でした。それまでは上司による“指導”として片付けられていましたからね」
馬場「そのようですよね。それで、どんなパワハラがあって、なぜ⬛︎⬛︎株式会社は廃業することになったのでしょうか?」
M「……会社の人間が死亡したんですよ」
馬場「え?」
M「しかも、自殺でした。パワハラの主犯格だった上司と、一緒になって囃し立てていた人たちへの怨念を綴った遺書を残して。ご遺族の方が会社を訴えたことで、廃業せざるを得なくなったんです」
馬場「それは……なんというか、亡くなられた方とご遺族の方がお気の毒ですね。Mさんはパワハラの現場を見たんでしょうか?」
M「ええ、見ましたよ。実はその亡くなった同僚は、一つ上の先輩だったんです。新人の頃の僕の、教育係でもありました。優しい先輩でしたが、優しいからこそ上司の言うことに逆らえなかったんですよね……。日頃の強い叱責による指導や、頭を叩かれたり足を蹴られたりといったことは日常茶飯事。少しでもミスをすれば上半身を裸にしてお腹に『私はバカです』とマジックで書かれて、土下座させられたり……。思い出すだけでも身の毛がよだちます」
馬場「そんなことがあったんですね……。他に何か、印象に残っている出来事はありますか?」
M「その亡くなった先輩は、僕と同じ商品開発部にいたんですけどね。先輩が提案した文房具についての企画を、上司が手ひどく却下したことがあったんです。文房具の企画は確か、百種類以上のデザインを使ったメモ帳だったと思います。一つ一つに違う絵柄が描かれていて、人にあげるのも自分で使うのも楽しくなるようなものです。その先輩は子どものころ、友達の輪に入れなかった経験があったそうで。『こんなメモ帳があったら、学校で孤立しているような子も、みんなの輪の中で楽しく遊べるだろう』と言っていました。でもその企画書を見た上司は……先輩の前で、企画書をバサバサ床に落として、足で踏みつけたんです」
馬場「足で踏みつけた? それはまた、かなりひどいですね」
M「ええ、僕もそう思いました。現場で見ていた人はみんな、さすがにやりすぎと感じたと思います。でも上司は、『こんなメモ帳、デザインにどれだけコストがかかると思ってるんだ!』と先輩を怒鳴ったんです。『メモ帳は白でいいんだよ、真っ白で! 交換するもんでもないじゃねえか』と。傍から見ていても、それほど怒ることなのか? と疑問でした。先輩は悔しそうに顔を歪めて『すみませんでした』と何度も謝っていました」
馬場「もしかして先輩が亡くなったのって……」
M「はい。そのすぐ後です……。正確にはその翌日の明け方だったと思います。自宅で首を吊って亡くなったそうです……」
馬場「……やるせないですね」
M「はい……。お世話になった先輩だったのに、僕は何もできませんでした。僕だけじゃなくて、他の誰も。先輩を庇うことで、次に自分がパワハラのターゲットになるのが怖かったんですよね」
馬場「お気持ちは分かります。その事件がきっかけで⬛︎⬛︎株式会社は廃業せざるを得なくなったというわけですね」
M「そうです。もう⬛︎⬛︎株式会社はありません。でも」
馬場「でも?」
M「時折感じるんですよ、⬛︎⬛︎株式会社の存在を」
馬場「というと?」
M「自分でも何を言っているのか、おかしいというのは分かります。だけど、⬛︎⬛︎株式会社がまだこの世のどこかに存在していて、先輩の無念がないはずの⬛︎⬛︎株式会社に留まっているような気がするんです」
馬場「それは、失礼ですがMさんの妄想では?」
M「そうですね。そう思われるのも当たり前だと思います。でも、⬛︎⬛︎株式会社に勤めていた元同僚たちも同じように感じているらしいんです。⬛︎⬛︎株式会社はまだどこかに存在している。死んでしまった先輩の魂が、そこでまだ彷徨っている——」
馬場「はあ。そんなことがあるはずがない……とは、一概に言えませんね。少し顔色が悪いようですから、今日はここまでにさせていただきます。お話をしてくださりありがとうございました」
Mさんとの会話はここまでである。
この時すでに、存在しないはずの⬛︎⬛︎株式会社が、Mさんや元同僚たちの間では存在していることになっていた——それが、今回の「平成女児ファンシー文具」の事件と関係があるのかは定かではない。
だが、2005年という年、⬛︎⬛︎株式会社という存在しないはずの文具メーカー、⬛︎⬛︎株式会社の上司が口にした“メモ帳は白でいいんだよ、真っ白で!”という言葉。
すべてをつなぎ合わせると、現在小中学生の間で噂されている事件は、自殺したMさんの先輩の怨念が引き起こしている怪異なのかもしれない——と考えられるのではないだろうか。
<了>
ライター:馬場直哉



