きらきらでかわいいまっしろ

 自宅に帰ると、お母さんが当たり前のように「おかえり」と言ってくれた。

「今日のレッスンはどうだった?」

「ん……いつも通りだよ」

 まるで今日、レッスンを途中でサボったことを知っているかのような聞き方に一瞬どきりとしたが、母は「そう」とすぐに納得してくれた。なんとなく聞いただけだと分かり、ほっとする。
 その後、父が仕事から帰って来た後に母の作ってくれた夕飯を食べ、お風呂に入った。なんということもない日常の一場面だが、お風呂から上がり洗面所で髪の毛を乾かしている最中に、一瞬、鏡に白い影が映った気がして、思わずドライヤーを右手から滑り落とした。

 い、今のは何……?
 振り返っても何もいない。鏡の中の白い影は一瞬で消えてしまった。見間違いかと思ったけれど、そうじゃない。絶対に私は今、白い影を目にしたのだ。
 その時初めて、私は自分がすでに「まっしろ」の怪異に取り込まれているのではないかと感じたのだ。


 一週間、学校と自宅を行き来する間、まっしろ事件や実里ちゃんのこと、翠ちゃんが持って来た平成女児グッズの存在しない会社について、考え続けた。 
 学校では仲良しの友人である四宮結衣(しのみやゆい)中原美菜(なかはらみな)から、「最近様子が変だね」と心配された。
「そう……かな」

「うん。変だよ変。この前渡した交換ノートだって書いてないでしょ?」

「ああ、うん。ごめん」

 結衣に言われて、思わず机の中を漁る。そういえば先週、結衣と美菜から「交換ノートをしよう」と言われて、ノートを渡されたのだった。星空柄の何の変哲もない大学ノート。反射的に翠ちゃんの交換ノートが頭に浮かんだが、すぐに思考を振り払い、交換ノートをする約束をした。
 でも、私はまだ一度も二人に交換ノートを回せていない。

「……明日書いて持って行くね」

「了解! でもまあ、無理しないでもいいけどね」

「そうそう。できる範囲でいいよ〜。ぶっちゃけ私も頻繁に書くの苦手だから」

 美菜の緩い発言に、結衣は「いやあんたもやる気ないんかーい」と軽快なツッコミを入れていた。二人の会話の軽さに、思わずふふっと笑みがこぼれる。
 私を元気づけようとしてくれているのかもしれないし、そうじゃなくて自然に会話をしているだけなのかもしれない。でもどちらにせよ、二人との他愛もない時間だけが、今の私にとって拠り所のような気がしていた。


 その日の夜、いつものように翠ちゃんの件についてネットで調査を始めた。ここ一週間の間、匿名掲示板や見知らぬ人の過去のブログなどを漁っていたが、「まっしろ事件」について触れられている資料は少なかった。 

「あれ、これ……」
 
 その中で、一つの記事を見つけた。匿名掲示板に貼り付けられていたリンク先だった。

「“市場に出回る存在しない平成女児ファンシー文具の怪異”……」

 物騒なタイトルだが、「平成女児ファンシー文具」というワードに吸い込まれるようにして指をスクロールさせる。それは、とあるWEBライターが書いたWEB版オカルト雑誌の記事だった。