「注意したのはすごいわ。それでいじめの矛先があなたに向くようなことはなかったの?」
はーちゃん先生も感心した様子でりおさんを見つめる。りおさんは「ありました」と当たり前のように答えた。
「私、今ちょうど無視されてるんですよ、その絵美をいじめてた子たちに。絵美が学校に来なくなったから。でもそれ自体はそこまで気にしてなくて。ただ絵美が学校に来ないことが心配なんです」
りおさんの気持ちの強さが窺えるエピソードを聞き、私は心臓をぎゅっと鷲掴みにされたような心地になった。
隣では翠ちゃんも息をのんでりおさんを見つめている。
「強いのね、りおさんは。絵美さんが学校に来なくなるまでに、変わったことってあったのかしら?」
はーちゃん先生が慈愛に満ちたまなざしで、再びりおさんに問うた。
「変わったこと……ありました。なんでか分からないんですけど、ある日突然、絵美が白いシールを大量に持ってきたことがあるんです」
「白いシール?」
今度は「白」という単語に私はごくりと喉を鳴らす。反射的に「まっしろ事件」が再び頭に浮かんだ。
「『まっしろのシール、りおも欲しがってたでしょ?』『このシールで願いがかなうんだ』って。『これでまっしろになれるからだいじょうぶ』って、何かの呪文みたいに唱えるんですよ。シール帳一面に貼られたそのシールを見て、気味が悪くなっちゃって……」
りおさんが、ここで初めて顔を歪めてぶるぶると震え出した。よっぽどこわい出来事だったんだろう。思い出すだけでも鳥肌が立つという感じだった。
私も翠ちゃんもはーちゃん先生も、「まっしろ」という言葉がここでも出てきたことに驚く。一気にその場の空気が冷えたのが分かった。
「写真も撮ったんですよ。えっと、ほらこれです——」
りおさんがスマホでカメラロールをスクロールして、手を止めた。
私たちはりおさんに促されるようにして、彼女のスマホの画面を覗き込む。
でもそこに映っていたのは白いシールなんかではなかった。
「あれ? なんで……? 画面が黒くなってる……」
りおさんのスマホの画面は、確かに丸いシールの輪郭のようなものは見える。けれど、その上を黒い影が覆い尽くしていた。とても「白いシール」には見えない。
気味が悪くなったのか、りおさんがすぐに画面を閉じた。震える右手を押さえるようにして、「おかしい」とぶつぶつ呟き出した。
「こんなのおかしい。絵美のシールは白かったはず……。白、白、白、ばっかりで……。絵美も白くて、まっしろで、私、廊下ですれ違っても『おはよう』って言えなくて……」
突然、何かのスイッチが入ったかのようにうわごとのような言葉を繰り返すりおさん。
はーちゃん先生が「大丈夫?」とりおさんの席のほうに回り、彼女の背中を撫でる。りおさんは顔を青くしたまま、宙を見つめて我を失っている様子だった。
でも私は、りおさんの様子よりも彼女の先ほどの発言が頭にこびりついて離れない。
“絵美も白くて、まっしろで”
「りおさん、絵美さんが“まっしろ”って、どういうことですか?」
恐る恐る尋ねた。りおさんが焦点の定まらない視線を私のほうへとぼんやり向けて、「白かったの」と呟いた。
「絵美が学校に来なくなる前の日……廊下ですれ違ったんだけど、全身が白く見えて……。もともと肌が黒い子だったから、ギャップがすごくて、頭から離れないの……。その日、教室で会ったあの子は普通だったから見間違いだったのかもしれないけど、でも次の日から学校を休んでるから、あれはなんだったんだろうって……」
りおさん自身、絵美さんの不可解な様子について、きちんと咀嚼できていない様子だった。それもそうだろう。突然友達の全身が真っ白になった姿を見て、どういうことなのか理解できるはずがない。
「白く見えたって……実里ちゃんと一緒……?」
翠ちゃんの呟きも、りおさんには届いていないようだった。完全に我を失った様子で、もう私たちのことも見えてない。何かに取り憑かれたように、ひたすら「白かった」「白くてこわかった」と震えているばかりだった。
はーちゃん先生も感心した様子でりおさんを見つめる。りおさんは「ありました」と当たり前のように答えた。
「私、今ちょうど無視されてるんですよ、その絵美をいじめてた子たちに。絵美が学校に来なくなったから。でもそれ自体はそこまで気にしてなくて。ただ絵美が学校に来ないことが心配なんです」
りおさんの気持ちの強さが窺えるエピソードを聞き、私は心臓をぎゅっと鷲掴みにされたような心地になった。
隣では翠ちゃんも息をのんでりおさんを見つめている。
「強いのね、りおさんは。絵美さんが学校に来なくなるまでに、変わったことってあったのかしら?」
はーちゃん先生が慈愛に満ちたまなざしで、再びりおさんに問うた。
「変わったこと……ありました。なんでか分からないんですけど、ある日突然、絵美が白いシールを大量に持ってきたことがあるんです」
「白いシール?」
今度は「白」という単語に私はごくりと喉を鳴らす。反射的に「まっしろ事件」が再び頭に浮かんだ。
「『まっしろのシール、りおも欲しがってたでしょ?』『このシールで願いがかなうんだ』って。『これでまっしろになれるからだいじょうぶ』って、何かの呪文みたいに唱えるんですよ。シール帳一面に貼られたそのシールを見て、気味が悪くなっちゃって……」
りおさんが、ここで初めて顔を歪めてぶるぶると震え出した。よっぽどこわい出来事だったんだろう。思い出すだけでも鳥肌が立つという感じだった。
私も翠ちゃんもはーちゃん先生も、「まっしろ」という言葉がここでも出てきたことに驚く。一気にその場の空気が冷えたのが分かった。
「写真も撮ったんですよ。えっと、ほらこれです——」
りおさんがスマホでカメラロールをスクロールして、手を止めた。
私たちはりおさんに促されるようにして、彼女のスマホの画面を覗き込む。
でもそこに映っていたのは白いシールなんかではなかった。
「あれ? なんで……? 画面が黒くなってる……」
りおさんのスマホの画面は、確かに丸いシールの輪郭のようなものは見える。けれど、その上を黒い影が覆い尽くしていた。とても「白いシール」には見えない。
気味が悪くなったのか、りおさんがすぐに画面を閉じた。震える右手を押さえるようにして、「おかしい」とぶつぶつ呟き出した。
「こんなのおかしい。絵美のシールは白かったはず……。白、白、白、ばっかりで……。絵美も白くて、まっしろで、私、廊下ですれ違っても『おはよう』って言えなくて……」
突然、何かのスイッチが入ったかのようにうわごとのような言葉を繰り返すりおさん。
はーちゃん先生が「大丈夫?」とりおさんの席のほうに回り、彼女の背中を撫でる。りおさんは顔を青くしたまま、宙を見つめて我を失っている様子だった。
でも私は、りおさんの様子よりも彼女の先ほどの発言が頭にこびりついて離れない。
“絵美も白くて、まっしろで”
「りおさん、絵美さんが“まっしろ”って、どういうことですか?」
恐る恐る尋ねた。りおさんが焦点の定まらない視線を私のほうへとぼんやり向けて、「白かったの」と呟いた。
「絵美が学校に来なくなる前の日……廊下ですれ違ったんだけど、全身が白く見えて……。もともと肌が黒い子だったから、ギャップがすごくて、頭から離れないの……。その日、教室で会ったあの子は普通だったから見間違いだったのかもしれないけど、でも次の日から学校を休んでるから、あれはなんだったんだろうって……」
りおさん自身、絵美さんの不可解な様子について、きちんと咀嚼できていない様子だった。それもそうだろう。突然友達の全身が真っ白になった姿を見て、どういうことなのか理解できるはずがない。
「白く見えたって……実里ちゃんと一緒……?」
翠ちゃんの呟きも、りおさんには届いていないようだった。完全に我を失った様子で、もう私たちのことも見えてない。何かに取り憑かれたように、ひたすら「白かった」「白くてこわかった」と震えているばかりだった。



