「翠ちゃんどうしたの? 今日ずっと音が沈んでるね」
隣から飛んできたはーちゃん先生の声に、連弾をしていた私、矢崎茉白の手が止まる。高音域を担当していた翠ちゃんの右手も、ポロリンと四音ほど鍵盤を滑るように叩いて止まった。
「すみませんっ」
はっと顔をこわばらせて、左側に座っている私とはーちゃん先生にぺこぺこと頭を下げる翠ちゃん。私よりも三つ年下で小学五年生の翠ちゃんは、普段から礼儀正しくていい子なんだけど、今日はどこか挙動不審というか、何かに怯えている様子だった。
「謝る必要はないんだけど、何か心配事でもあるのかなって」
アラサーで私たちのピアノの先生であるはーちゃん先生こと福原葉月先生は、細いフレームのメガネをちょっと持ち上げながら、翠ちゃんに聞いた。
「いや……大丈夫です」
明らかに大丈夫ではなさそうに、不安げに揺れている翠ちゃんの声。これではさすがに、連弾の練習もままならないと思った私は「何か話があるなら聞くよ」と彼女に心のうちを吐き出すよう、促した。
はーちゃん先生も大きく頷いている。
私たちの気遣いを察知してくれたからか、固くなっていた翠ちゃんが「学校でのことなんですけど……」と不安の種について語り始めた。
「昨日、ちょっとこわいものを見ちゃったんです」
「こわいもの?」
「はい……。その、最近学校で“平成女児グッズ”の見せ合いや交換が流行ってるんです」
まだ小学生の翠ちゃんの口から“平成女児”などというワードが飛び出してきたことに、はーちゃん先生は驚きを隠せない様子で目を丸くする。私もそのちぐはぐさに違和感を覚えたものの、平成女児グッズが流行っていること自体は知っているからそれほど驚きはしなかった。というか、私の通っている名和代中学校でも流行り始めているし、小中学生の間では今、全国的にブームなんだろう。
「そういえばニュースでやってたわね。シール交換やらメモ帳交換やら、流行ってるって」
「はーちゃん先生も知ってるんですね」
「うん、だって私はもと“平成女児”だからね」
はーちゃん先生がえへん、と胸を張りながら答える。
「わ、そうですよね。はーちゃん先生が子どもの頃にちょうど流行ってたグッズですよね」
「当時は“グッズ”っていう認識じゃなかったけどね。単にきらきらしてかわいい文房具を集めてただけで」
「そうなんです! きらきらしてかわいいんですよ、平成女児グッズ!」
先ほどまで浮かない顔をしていた翠ちゃんだが、好きなものの話について、はーちゃん先生と分かり合えたからか、途端に目をきらきらと輝かせた。
隣から飛んできたはーちゃん先生の声に、連弾をしていた私、矢崎茉白の手が止まる。高音域を担当していた翠ちゃんの右手も、ポロリンと四音ほど鍵盤を滑るように叩いて止まった。
「すみませんっ」
はっと顔をこわばらせて、左側に座っている私とはーちゃん先生にぺこぺこと頭を下げる翠ちゃん。私よりも三つ年下で小学五年生の翠ちゃんは、普段から礼儀正しくていい子なんだけど、今日はどこか挙動不審というか、何かに怯えている様子だった。
「謝る必要はないんだけど、何か心配事でもあるのかなって」
アラサーで私たちのピアノの先生であるはーちゃん先生こと福原葉月先生は、細いフレームのメガネをちょっと持ち上げながら、翠ちゃんに聞いた。
「いや……大丈夫です」
明らかに大丈夫ではなさそうに、不安げに揺れている翠ちゃんの声。これではさすがに、連弾の練習もままならないと思った私は「何か話があるなら聞くよ」と彼女に心のうちを吐き出すよう、促した。
はーちゃん先生も大きく頷いている。
私たちの気遣いを察知してくれたからか、固くなっていた翠ちゃんが「学校でのことなんですけど……」と不安の種について語り始めた。
「昨日、ちょっとこわいものを見ちゃったんです」
「こわいもの?」
「はい……。その、最近学校で“平成女児グッズ”の見せ合いや交換が流行ってるんです」
まだ小学生の翠ちゃんの口から“平成女児”などというワードが飛び出してきたことに、はーちゃん先生は驚きを隠せない様子で目を丸くする。私もそのちぐはぐさに違和感を覚えたものの、平成女児グッズが流行っていること自体は知っているからそれほど驚きはしなかった。というか、私の通っている名和代中学校でも流行り始めているし、小中学生の間では今、全国的にブームなんだろう。
「そういえばニュースでやってたわね。シール交換やらメモ帳交換やら、流行ってるって」
「はーちゃん先生も知ってるんですね」
「うん、だって私はもと“平成女児”だからね」
はーちゃん先生がえへん、と胸を張りながら答える。
「わ、そうですよね。はーちゃん先生が子どもの頃にちょうど流行ってたグッズですよね」
「当時は“グッズ”っていう認識じゃなかったけどね。単にきらきらしてかわいい文房具を集めてただけで」
「そうなんです! きらきらしてかわいいんですよ、平成女児グッズ!」
先ほどまで浮かない顔をしていた翠ちゃんだが、好きなものの話について、はーちゃん先生と分かり合えたからか、途端に目をきらきらと輝かせた。



