※以下は都内××小学校5年B組の元生徒の女性三人へのインタビュー録音記録である。
個人情報保護の観点から、それぞれの名前は便宜上A、B、Cとしている。また、事件の被害者である女児はDとする。
(とあるオフィスの会議室のような場所に、二十代前半の女性三人とライターが向かい合って座っている)
——本日はお忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます。
A「いえー、大学暇なので大丈夫です」
B「えっと……十年前の事件の話のインタビュー、だっけ。う〜ん、あんまり覚えてないなぁ」
C「てかさ、これってそのまま公開されるやつ? 顔も映ってる?」
——いえ、顔は映りません。あくまで音声記録として残させていただくだけです。もし記事化させていただく場合には、再度ご連絡、ご許可の上で掲載させていただきます。こちらが勝手に録音データを公開したり、記事を掲載したりすることはございませんので、ご安心ください。
C「はあ。まあ細かいことはどうでもいいけどさ。あたしこの後夜勤だから、あんまり長くしないでよ」
A「C、今日夜勤なんだ。大変だね」
B「大学生のAと専門学生の私には考えられない世界だわ」
C「そそ、二人も社会出たらいろいろあるって。って、早く終わらせなきゃだから、本題入ろうよ」
——そうですね。まず、三人はこうして顔を合わせるのはよくあることなんでしょうか?
A「だいぶ久しぶりだよね……? 最後に会ったのいつだろう」
B「半年ぐらい前じゃない? 中学まではみんな一緒で、高校がバラバラになって。そこでちょっとずつ会う頻度減ったよね。でも二ヶ月に一回ぐらいは集まってたかな。高校卒業後はCが就職して忙しくなってほとんど会えてないね」
C「ごめんってー。半年前に会ったのが本当に久しぶりで、今に至るって感じ」
——なるほど、分かりました。中学校はみなさん地元の公立中学校に進学されたということですね?
B「そうでーす。私立受験組なんてほとんどいなかったよね?」
A「うん、いなかったかな」
C「一人か二人だよね。その人たちとは生きてる世界が違ったし、あんまり覚えてないわ」
——そんなもんですよね。では前置きはこれぐらいにして早速5年B組で起きた事件について教えていただきたいのですが。みなさんのクラスメイトの女の子Dさんが学校の屋上から飛び降りた事件は……もちろん覚えていらっしゃいますよね。
A「ええ、まあ……」
B「そりゃ忘れるほうが無理な話です」
C「え、そう? あたしはちょっと忘れかけてたよ」
B「ちょ、Cってば、そりゃないでしょ。だってアンタあれだけDのこと——」
(ここでCがとぼけた表情をする。Bが驚いた様子で顔をしかめている)
——どうかされましたか?
B「い、いえ、すみません。なんでもないですっ」
C「もー何言ってんの、B」
(Cは何かを取り繕うようにBの背中を叩く)
——詳しく教えていただけませんか?
B「……」
C「…………」
A「……きちんと話したほうがいいんじゃない?」
(Aが緊張した面持ちでBとCを見やる。Bは顔を伏せ、CはキッとAを睨む)
C「A、あんたは見て見ぬふりをする傍観者だったからそんなこと言えるんでしょ」
A「ち、違うよ! 事実としてあのクラスであったことを話すために今日ここに集まったんだからそうするべきでしょ? それにCだって言ってたじゃん。もう時効だから大丈夫って」
C「そうだけどさっ。安全圏からあたしらを見てたAがずるいって思っただけ」
A「それは……」
(Aが気まずそうに口を噤む)
——Cさんが被害者であるDさんのいじめの主犯格であったことは、裏が取れています。同じく、BさんもCさんと一緒になってDさんを追い詰めていたそうですね。Aさんは……二人を止めたいけれど止められない立場だったと聞いています。
(三人が一斉に息をのむ)
C「……なーんだ。最初からバレてんじゃん」
B「5-Bの誰かがリークしたんだね」
A「そうかなと思ってとこです……」
——いじめの是非については、この場で議論しません。あなたたちは散々、いろんな人から罪を咎められてきたと思いますので。ここではみなさんに反省したほしいのではなく、Dさんの不可解な死について、聞きたいことがあってインタビューをしているのです。
(三人はやや安堵した様子で、聞き手のほうを見つめた)
A「……不可解な死?」
B「何かおかしなことあったっけ」
——Dさんが飛び降りた際に身体に塗られていたラインパウダーのことです。運動場の白線を引くための白い粉が、彼女の身体に付着していました。手違いでついてしまったとは思えないほどの量のそれが。一体どうしてそんなことになっていたんでしょう?
(Cが目を瞠る。しばらく沈黙が流れるが、やがて観念した様子でCが口を開いた)
C「それは……Dが地黒だから、粉かけたら白くなれるよってあたしが揶揄って……」
——地黒? 肌が黒かったということですか?
C「それ以外何があるのよ! 小学生のいじめなんてそんなもんでしょ? 見た目が不細工とか、太ってるとか。名前が変とか持ち物がかわいくないとか。地黒が変だって思うのも普通の感覚だって」
B「C、落ち着きなよ。別にお兄さんだって責めてるわけじゃないんだし……」
C「わ、分かってるけどさっ、しつこく聞かれるのが嫌いなのっ」
——しつこくてすみません。それで、CさんはDさんの肌が黒いことを揶揄って、Dさんに日頃からラインパウダーを振りかけていたということですね。
C「そうっ! あとはまあ、よくある仲間はずれにしたぐらいよっ。シール交換とかプロフィール帳交換とか一緒にやらなかっただけ」
A「お兄さんはシール交換なんてやってこなかったですよね。分かりますか?」
——まあなんとなくは。幼稚園の頃、女の子たちがよく公園で集まってシール交換してた気がしますね。
B「そうそう、そんな感じの。それが教室でも流行ってたけど、それにDを誘わなかっただけ。Dはやりたそうにしてたけどね」
C「誘ってないのに明らかにやりたいって顔に書いてあって、キモかったなぁ」
A「ちょっとC、今そんなこと」
C「もういいじゃん。開き直りだよ。で、それ以外に何が聞きたいの?」
——Dさんが亡くなった時に彼女の身体についていたラインパウダーも、CさんやBさんがつけたもの……ということでしょうか。
C「えー? それはちがうちがう」
B「違う、よね?」
A「確かに、あの日は誰もDに話しかけなかったような気がします」
——というと?
A「Dが屋上から飛び降りたのって、朝でしたよね……? 確か、HRが始まる前の時間帯だったと思います。みんな、朝からDにつっかかるようなことはなかった……よね?」
B「うん、そうそう」
C「何かするならたいていは昼休みか放課後だったな。朝からそんなにやる気ないって。だからその日も朝Dが屋上に行くまでに話しかけなかったわ」
——は、はあ。そうだったんですね。てっきりみなさんがやったのかと……。じゃあ、Dさんはどうしてその日、朝からラインパウダーを振り掛けられた状態で飛び降りて亡くなったのでしょうか。
C「それは、あいつが自分でやったんだよ」
——はい? 自分でラインパウダーを……ですか?
C「うん。なんかあの事件の数日前ぐらいから、Dの様子、変だったよね?」
B「変だった変だった。私らが言えることじゃないけどさ」
——どんなふうにおかしかったのでしょうか?
(BとCが顔を見合わせて押し黙る。恐ろしい記憶を思い出した様子だ。代わりにAが答えた)
A「いじめとは別に……ぶつぶつと独り言を言うことが増えたんです」
——どんな独り言ですか?
A「『まっしろになりたい』『まっしろに』『まっしろになればだいじょうぶ』って……」
——まっしろになればだいじょうぶ……。
A「それで、事件の日も……教室で気味の悪い笑顔を浮かべながらずっと唱えてたんです。『まっしろになるからだいじょうぶ』って。その後、いつ用意してたのか知りませんが、ロッカーからバケツに入ったラインパウダーを取り出して頭から被ったんです、Dが、自分で」
——……それは、知りませんでした。今までのインタビューでは誰もそんなこと言ってなかったですし、ニュースにもなっていませんよね。
A「ええ、そうだと思います。だってあの時教室にいたのは私たちと、Dだけだったんです。他の子はまだ登校してない時間帯でした」
——なるほど……。ちょっとびっくりしてしまいまして。Dさんが、自らラインパウダーを……。当時のラインパウダーが人体に良くないということはみなさんご存知でしたよね?
A「まあ、なんとなくは知っていました。でも自分自身にラインパウダーをかけている時のDは心底幸せそうに見えたんです」
まっしろになるからだいじょうぶ
まっしろでだいじょうぶ
だいじょうぶですよ
※音声はここで途切れている。BとCの声は途中でしなくなり、最後に話していたAの声でもない謎の音声が入り込んでいたため、インタビュー録音データは記事化も公開もされないままである。
個人情報保護の観点から、それぞれの名前は便宜上A、B、Cとしている。また、事件の被害者である女児はDとする。
(とあるオフィスの会議室のような場所に、二十代前半の女性三人とライターが向かい合って座っている)
——本日はお忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます。
A「いえー、大学暇なので大丈夫です」
B「えっと……十年前の事件の話のインタビュー、だっけ。う〜ん、あんまり覚えてないなぁ」
C「てかさ、これってそのまま公開されるやつ? 顔も映ってる?」
——いえ、顔は映りません。あくまで音声記録として残させていただくだけです。もし記事化させていただく場合には、再度ご連絡、ご許可の上で掲載させていただきます。こちらが勝手に録音データを公開したり、記事を掲載したりすることはございませんので、ご安心ください。
C「はあ。まあ細かいことはどうでもいいけどさ。あたしこの後夜勤だから、あんまり長くしないでよ」
A「C、今日夜勤なんだ。大変だね」
B「大学生のAと専門学生の私には考えられない世界だわ」
C「そそ、二人も社会出たらいろいろあるって。って、早く終わらせなきゃだから、本題入ろうよ」
——そうですね。まず、三人はこうして顔を合わせるのはよくあることなんでしょうか?
A「だいぶ久しぶりだよね……? 最後に会ったのいつだろう」
B「半年ぐらい前じゃない? 中学まではみんな一緒で、高校がバラバラになって。そこでちょっとずつ会う頻度減ったよね。でも二ヶ月に一回ぐらいは集まってたかな。高校卒業後はCが就職して忙しくなってほとんど会えてないね」
C「ごめんってー。半年前に会ったのが本当に久しぶりで、今に至るって感じ」
——なるほど、分かりました。中学校はみなさん地元の公立中学校に進学されたということですね?
B「そうでーす。私立受験組なんてほとんどいなかったよね?」
A「うん、いなかったかな」
C「一人か二人だよね。その人たちとは生きてる世界が違ったし、あんまり覚えてないわ」
——そんなもんですよね。では前置きはこれぐらいにして早速5年B組で起きた事件について教えていただきたいのですが。みなさんのクラスメイトの女の子Dさんが学校の屋上から飛び降りた事件は……もちろん覚えていらっしゃいますよね。
A「ええ、まあ……」
B「そりゃ忘れるほうが無理な話です」
C「え、そう? あたしはちょっと忘れかけてたよ」
B「ちょ、Cってば、そりゃないでしょ。だってアンタあれだけDのこと——」
(ここでCがとぼけた表情をする。Bが驚いた様子で顔をしかめている)
——どうかされましたか?
B「い、いえ、すみません。なんでもないですっ」
C「もー何言ってんの、B」
(Cは何かを取り繕うようにBの背中を叩く)
——詳しく教えていただけませんか?
B「……」
C「…………」
A「……きちんと話したほうがいいんじゃない?」
(Aが緊張した面持ちでBとCを見やる。Bは顔を伏せ、CはキッとAを睨む)
C「A、あんたは見て見ぬふりをする傍観者だったからそんなこと言えるんでしょ」
A「ち、違うよ! 事実としてあのクラスであったことを話すために今日ここに集まったんだからそうするべきでしょ? それにCだって言ってたじゃん。もう時効だから大丈夫って」
C「そうだけどさっ。安全圏からあたしらを見てたAがずるいって思っただけ」
A「それは……」
(Aが気まずそうに口を噤む)
——Cさんが被害者であるDさんのいじめの主犯格であったことは、裏が取れています。同じく、BさんもCさんと一緒になってDさんを追い詰めていたそうですね。Aさんは……二人を止めたいけれど止められない立場だったと聞いています。
(三人が一斉に息をのむ)
C「……なーんだ。最初からバレてんじゃん」
B「5-Bの誰かがリークしたんだね」
A「そうかなと思ってとこです……」
——いじめの是非については、この場で議論しません。あなたたちは散々、いろんな人から罪を咎められてきたと思いますので。ここではみなさんに反省したほしいのではなく、Dさんの不可解な死について、聞きたいことがあってインタビューをしているのです。
(三人はやや安堵した様子で、聞き手のほうを見つめた)
A「……不可解な死?」
B「何かおかしなことあったっけ」
——Dさんが飛び降りた際に身体に塗られていたラインパウダーのことです。運動場の白線を引くための白い粉が、彼女の身体に付着していました。手違いでついてしまったとは思えないほどの量のそれが。一体どうしてそんなことになっていたんでしょう?
(Cが目を瞠る。しばらく沈黙が流れるが、やがて観念した様子でCが口を開いた)
C「それは……Dが地黒だから、粉かけたら白くなれるよってあたしが揶揄って……」
——地黒? 肌が黒かったということですか?
C「それ以外何があるのよ! 小学生のいじめなんてそんなもんでしょ? 見た目が不細工とか、太ってるとか。名前が変とか持ち物がかわいくないとか。地黒が変だって思うのも普通の感覚だって」
B「C、落ち着きなよ。別にお兄さんだって責めてるわけじゃないんだし……」
C「わ、分かってるけどさっ、しつこく聞かれるのが嫌いなのっ」
——しつこくてすみません。それで、CさんはDさんの肌が黒いことを揶揄って、Dさんに日頃からラインパウダーを振りかけていたということですね。
C「そうっ! あとはまあ、よくある仲間はずれにしたぐらいよっ。シール交換とかプロフィール帳交換とか一緒にやらなかっただけ」
A「お兄さんはシール交換なんてやってこなかったですよね。分かりますか?」
——まあなんとなくは。幼稚園の頃、女の子たちがよく公園で集まってシール交換してた気がしますね。
B「そうそう、そんな感じの。それが教室でも流行ってたけど、それにDを誘わなかっただけ。Dはやりたそうにしてたけどね」
C「誘ってないのに明らかにやりたいって顔に書いてあって、キモかったなぁ」
A「ちょっとC、今そんなこと」
C「もういいじゃん。開き直りだよ。で、それ以外に何が聞きたいの?」
——Dさんが亡くなった時に彼女の身体についていたラインパウダーも、CさんやBさんがつけたもの……ということでしょうか。
C「えー? それはちがうちがう」
B「違う、よね?」
A「確かに、あの日は誰もDに話しかけなかったような気がします」
——というと?
A「Dが屋上から飛び降りたのって、朝でしたよね……? 確か、HRが始まる前の時間帯だったと思います。みんな、朝からDにつっかかるようなことはなかった……よね?」
B「うん、そうそう」
C「何かするならたいていは昼休みか放課後だったな。朝からそんなにやる気ないって。だからその日も朝Dが屋上に行くまでに話しかけなかったわ」
——は、はあ。そうだったんですね。てっきりみなさんがやったのかと……。じゃあ、Dさんはどうしてその日、朝からラインパウダーを振り掛けられた状態で飛び降りて亡くなったのでしょうか。
C「それは、あいつが自分でやったんだよ」
——はい? 自分でラインパウダーを……ですか?
C「うん。なんかあの事件の数日前ぐらいから、Dの様子、変だったよね?」
B「変だった変だった。私らが言えることじゃないけどさ」
——どんなふうにおかしかったのでしょうか?
(BとCが顔を見合わせて押し黙る。恐ろしい記憶を思い出した様子だ。代わりにAが答えた)
A「いじめとは別に……ぶつぶつと独り言を言うことが増えたんです」
——どんな独り言ですか?
A「『まっしろになりたい』『まっしろに』『まっしろになればだいじょうぶ』って……」
——まっしろになればだいじょうぶ……。
A「それで、事件の日も……教室で気味の悪い笑顔を浮かべながらずっと唱えてたんです。『まっしろになるからだいじょうぶ』って。その後、いつ用意してたのか知りませんが、ロッカーからバケツに入ったラインパウダーを取り出して頭から被ったんです、Dが、自分で」
——……それは、知りませんでした。今までのインタビューでは誰もそんなこと言ってなかったですし、ニュースにもなっていませんよね。
A「ええ、そうだと思います。だってあの時教室にいたのは私たちと、Dだけだったんです。他の子はまだ登校してない時間帯でした」
——なるほど……。ちょっとびっくりしてしまいまして。Dさんが、自らラインパウダーを……。当時のラインパウダーが人体に良くないということはみなさんご存知でしたよね?
A「まあ、なんとなくは知っていました。でも自分自身にラインパウダーをかけている時のDは心底幸せそうに見えたんです」
まっしろになるからだいじょうぶ
まっしろでだいじょうぶ
だいじょうぶですよ
※音声はここで途切れている。BとCの声は途中でしなくなり、最後に話していたAの声でもない謎の音声が入り込んでいたため、インタビュー録音データは記事化も公開もされないままである。



