「少しは落ち着いた?」
「はい、すみません。ありがとうございます」
はーちゃん先生の気遣いに、翠ちゃんは申し訳なさそうに頭を下げる。むしろ、翠ちゃんにまたこわい思いをさせてしまった私たちが悪いような気がして、「ごめんね」と謝った。
「お二人が謝ることじゃないですっ。でもあれは完全に……いっちゃってましたね」
翠ちゃんの口から「いっちゃってる」なんて言葉が出てきて、ちょっとおかしくて吹き出してしまう。未だ全身を支配する恐怖心から逃れようと防衛反応が働いたのかもしれない。
「お母さんがあんな感じである以上、直接家で実里ちゃんに会うのは難しそうだよね。翠ちゃん、実里ちゃんに連絡はつかない?」
私の問いに、翠ちゃんがポケットからスマホを取り出しながら「連絡してるけど既読にならなくて」と困ったように眉を下げる。
最近は小学生でもスマホを所持している子どもが多く、翠ちゃんもその一人だ。
「すごいわよね。今の時代、小学生でもスマホを持ち歩いてるなんて」
ピアノの先生をしているはーちゃん先生は、スマホを持っている小学生に度々出くわすのだろう。この時代の“当たり前”に、驚いているらしかった。
「先生が小学生の頃は持ってなかったんですか?」
「ないない! スマホなんてなかったよ、私が小学生の時は」
「えっ、じゃあどうやって友達と連絡をとってたんですか?」
カルチャーショックを受けて純粋な質問をしている翠ちゃんが微笑ましい。かくいう私も、スマホがない時代ってめちゃくちゃ不便じゃなかったのかと気になっていた。
「うーん、特に連絡なんてしてなかったかなー? 小学生なんて、その日に遊ぶ予定ぐらいしか立てないでしょ。だから遊びはその場で誘ってた。どうしても家に帰ってから連絡したいことがあったら、固定電話で電話してたよ」
「固定電話って、イエデンのこと?」
「そうそう。相手のご両親が出ることも多々あったわね」
「うげ、それは困るっ。電話かけづらい」
コロコロと表情を変えながらはーちゃん先生の子ども時代の話を聞く翠ちゃんが、だんだんいつも通りの明るい彼女に戻っていく。その様子を見てほっとしていた。
「あ、でも小学生の時、途中からみんなガラケーを持ち始めた気がする。ガラケーがあればさ、メールで連絡が取れたから、実は私も電話はそこまでしてないんだよね」
「ガラケーって、二つ折りの携帯のことですよね?」
「そうそう。スマホみたいにネットに繋がらないやつ。あれはあれでシンプルで良かったな。メールの絵文字でデコレーションするのも流行っててさ。いわゆる“デコメール”って聞いたことない?」
「知ってます! きらきらの絵文字をたくさん使うんですよね!」
「おお、知ってるのね。さすが平成女児グッズを集めてるだけある」
「へへっ」
翠ちゃんが得意げに笑う。私もデコメールに関してはちょっとだけ見聞きした程度だがふんわり知ってはいた。
はーちゃん先生と翠ちゃんが平成談義で盛り上がっているところ、翠ちゃんの手元のスマホにピコンと通知が届いた。
「あれ、なんの通知?」
私が翠ちゃんのスマホを覗きながら問いかけると、翠ちゃんは「Xです」と答えた。
つぶやき型のSNSであるXの黒いアイコンをタップして、通知の内容を確認する。
「わたしのこの前のポストにリプが来てます」
「リプ? ポストって、どんな?」
「先週の日曜日に実里ちゃんの家で白い影を見たことをXでつぶやいたんですよ。特に反応がなかったからポスト自体忘れてました」
そう言って、翠ちゃんが件の投稿とリプを見せてくれた。
-----------------------------------------
すー@suu_109 Sep27,2026
わたしのクラスメイトに交換ノートを貸したら、学校に来なくなっちゃった><
交換ノートが返ってこなくて困るし、心配だからその子の家に行ってみたら……
部屋の窓に白い人影?みたいなのが映って、こわくて逃げちゃった。
あれはなんだったんだろ……(泣)
リプライ:1 いいね:23 リポスト:4
>Replying to @suu_109
りお@rioriochan
はじめまして。
FF外からすみません!🙏
私の通ってる学校でも、同じようなことが起きたので、ついご連絡してしまいました。
-----------------------------------------
翠ちゃんに見せてもらった投稿は、確かに白い影について言及する内容だった。そして、リプ——つまり返信が来たのはたった今。
「りお」というアカウントからのリプで、丁寧な文面だった。
“私の通っている学校”とあるので、小学生か中学生……いや、高校生という可能性もあるか。
もしもこの人から詳しい事情を聞き出すことができれば、実里ちゃんの白い影について、彼女が学校を休んでいる理由についても何か分かるかもしれない。
「ねえ、ちょっとスマホ貸して。『りお』さんに、私が返信してもいい?」
「え、うん。いいよ」
翠ちゃんがスマホを貸してくれたので、私は翠ちゃんになりきって「りお」に返信を打った。
「はい、すみません。ありがとうございます」
はーちゃん先生の気遣いに、翠ちゃんは申し訳なさそうに頭を下げる。むしろ、翠ちゃんにまたこわい思いをさせてしまった私たちが悪いような気がして、「ごめんね」と謝った。
「お二人が謝ることじゃないですっ。でもあれは完全に……いっちゃってましたね」
翠ちゃんの口から「いっちゃってる」なんて言葉が出てきて、ちょっとおかしくて吹き出してしまう。未だ全身を支配する恐怖心から逃れようと防衛反応が働いたのかもしれない。
「お母さんがあんな感じである以上、直接家で実里ちゃんに会うのは難しそうだよね。翠ちゃん、実里ちゃんに連絡はつかない?」
私の問いに、翠ちゃんがポケットからスマホを取り出しながら「連絡してるけど既読にならなくて」と困ったように眉を下げる。
最近は小学生でもスマホを所持している子どもが多く、翠ちゃんもその一人だ。
「すごいわよね。今の時代、小学生でもスマホを持ち歩いてるなんて」
ピアノの先生をしているはーちゃん先生は、スマホを持っている小学生に度々出くわすのだろう。この時代の“当たり前”に、驚いているらしかった。
「先生が小学生の頃は持ってなかったんですか?」
「ないない! スマホなんてなかったよ、私が小学生の時は」
「えっ、じゃあどうやって友達と連絡をとってたんですか?」
カルチャーショックを受けて純粋な質問をしている翠ちゃんが微笑ましい。かくいう私も、スマホがない時代ってめちゃくちゃ不便じゃなかったのかと気になっていた。
「うーん、特に連絡なんてしてなかったかなー? 小学生なんて、その日に遊ぶ予定ぐらいしか立てないでしょ。だから遊びはその場で誘ってた。どうしても家に帰ってから連絡したいことがあったら、固定電話で電話してたよ」
「固定電話って、イエデンのこと?」
「そうそう。相手のご両親が出ることも多々あったわね」
「うげ、それは困るっ。電話かけづらい」
コロコロと表情を変えながらはーちゃん先生の子ども時代の話を聞く翠ちゃんが、だんだんいつも通りの明るい彼女に戻っていく。その様子を見てほっとしていた。
「あ、でも小学生の時、途中からみんなガラケーを持ち始めた気がする。ガラケーがあればさ、メールで連絡が取れたから、実は私も電話はそこまでしてないんだよね」
「ガラケーって、二つ折りの携帯のことですよね?」
「そうそう。スマホみたいにネットに繋がらないやつ。あれはあれでシンプルで良かったな。メールの絵文字でデコレーションするのも流行っててさ。いわゆる“デコメール”って聞いたことない?」
「知ってます! きらきらの絵文字をたくさん使うんですよね!」
「おお、知ってるのね。さすが平成女児グッズを集めてるだけある」
「へへっ」
翠ちゃんが得意げに笑う。私もデコメールに関してはちょっとだけ見聞きした程度だがふんわり知ってはいた。
はーちゃん先生と翠ちゃんが平成談義で盛り上がっているところ、翠ちゃんの手元のスマホにピコンと通知が届いた。
「あれ、なんの通知?」
私が翠ちゃんのスマホを覗きながら問いかけると、翠ちゃんは「Xです」と答えた。
つぶやき型のSNSであるXの黒いアイコンをタップして、通知の内容を確認する。
「わたしのこの前のポストにリプが来てます」
「リプ? ポストって、どんな?」
「先週の日曜日に実里ちゃんの家で白い影を見たことをXでつぶやいたんですよ。特に反応がなかったからポスト自体忘れてました」
そう言って、翠ちゃんが件の投稿とリプを見せてくれた。
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すー@suu_109 Sep27,2026
わたしのクラスメイトに交換ノートを貸したら、学校に来なくなっちゃった><
交換ノートが返ってこなくて困るし、心配だからその子の家に行ってみたら……
部屋の窓に白い人影?みたいなのが映って、こわくて逃げちゃった。
あれはなんだったんだろ……(泣)
リプライ:1 いいね:23 リポスト:4
>Replying to @suu_109
りお@rioriochan
はじめまして。
FF外からすみません!🙏
私の通ってる学校でも、同じようなことが起きたので、ついご連絡してしまいました。
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翠ちゃんに見せてもらった投稿は、確かに白い影について言及する内容だった。そして、リプ——つまり返信が来たのはたった今。
「りお」というアカウントからのリプで、丁寧な文面だった。
“私の通っている学校”とあるので、小学生か中学生……いや、高校生という可能性もあるか。
もしもこの人から詳しい事情を聞き出すことができれば、実里ちゃんの白い影について、彼女が学校を休んでいる理由についても何か分かるかもしれない。
「ねえ、ちょっとスマホ貸して。『りお』さんに、私が返信してもいい?」
「え、うん。いいよ」
翠ちゃんがスマホを貸してくれたので、私は翠ちゃんになりきって「りお」に返信を打った。



