きらきらでかわいいまっしろ

 はーちゃん先生の声に切実さが滲んでいる。
 翠ちゃんは祈るようにして実里ちゃんのお母さんの顔を見つめていた。
 私も、こわい気持ちはあるけれど、お母さんの言葉を聞き逃さないように、彼女の口元をじっと凝視する。
 長い沈黙が訪れた。その間、どんどん速くなる心臓の音が実里ちゃんのお母さんに聞こえはしまいかと、不安になった。
 やがて、実里ちゃんのお母さんの目元がきゅっと三日月型に細められて、パカッと口が開いた。私は、アクションゲームで見かけるような、口がパックリと開く植物のモンスターを思い浮かべた。

「だいじょうぶですよ」

「え?」

「あの子は、まっしろだから、だいじょうぶです」

「はい?」

 聞き間違いかと思った。隣の翠ちゃんがブルッと身体を大きく震わせたのが分かって、私は思わず彼女の手を握る。額から冷や汗が滑り落ちる。ずずずっと全身を這うような寒気に、私も自分の身体をかき抱きたくなった。

「あの、今なんて」

 はーちゃん先生だけが、まだ理性を保っているような様子でお母さんに聞き返す。正直私はそれ以上、もう何も聞いてくれるなと思っていた。翠ちゃんがぎゅっと両目を瞑っている。私たちは互いの温もりを分け合うようにして繋がれた手をさらに強く握りしめた。

「だいじょうぶです。まっしろでだいじょうぶです。だいじょうぶになったのでだいじょうぶです」

 そこまで聞くのが、限界だった。
 ゾワゾワゾワッと皮膚が粟立つような感覚に陥って、翠ちゃんと一緒に「きゃあっ」と悲鳴を上げた。翠ちゃんと繋がっていた手に、痛いほど力がこもり、思わず手を離した。二人して踵を返し、ダッシュで玄関から遠ざかった。

 はーちゃん先生も、顔を青くして私たちを追いかけるようにして走る。ふと振り返ると、実里ちゃんのお母さんがにっこりと不気味な笑みを浮かべて、門を閉めることなくこちらをじっと見つめていた。やっぱり監視されているみたいだった。私たちが余計なことをしないか、最後まで見届けようとしているように。言いようもない恐怖が湧き上がってきて、とにかくあの人の視界に入らない場所まで行かねば、という気持ちで曲がり角を曲がる。 

 三回ほど住宅街の角を曲がり、完全に山田家が見えなくなったところで、ようやく私たちは息をついた。
 全力で走ったせいで、全員がぜえぜえと肩で息をしている。
 近くにあった自動販売機で水を買い、ごくごくと喉へ流し込んだ。
 ようやく生きた心地がした。気を抜いたらあのピエロのような笑みに取り込まれてしまうような気がした。みんなで水を飲んで、やっと息を吸うことができた。