「実里ちゃんの家はここから十五分ぐらいのところにあるんです」
「翠ちゃんは、この前の日曜日に実里ちゃんの家に初めて行ったんだっけ?」
「うん。家の場所はなんとなく聞いて知ってたけど、行ったのは初めて」
「そっか」
実里ちゃんとはこれから仲良くしようというところだったと言っていたので、初めてというのは確かに納得がいく。
「他には実里ちゃんの家に遊びに行くような友達はいなかったのかな?」
はーちゃん先生がどうしてそんな質問をしたのか分からないけれど、翠ちゃんの肩が微かに揺れるのが分かった。
「たぶん……いないと思います」
「それは本人がそう言ってたの?」
はーちゃん先生の質問に、翠ちゃんが首を横に振る。
「実里ちゃんから直接聞いたわけじゃなくて……。この前のレッスンの時にも言いましたけど、実里ちゃんって友達に囲まれてるようなタイプの子じゃないから。放課後に友達を家に呼ぶなんてこともしないかなって」
なんとなく歯切れが悪くなる翠ちゃんのことがどうしても引っかかる。はーちゃん先生も同じだったんだろう。私と顔を見合わせて、困ったように眉を下げた。
「そっか。でも実里ちゃんの気持ちも分かるわ。私も、子どもの頃友達が多いほうじゃなかったから。……って、これは今もそうなんだけどね!」
自虐ネタでその場の空気を和やかにしようとしているはーちゃん先生の心遣いに気づいて、私も翠ちゃんもふふっと笑みをこぼした。
「意外です。先生は友達が多そうだなと思ってました」
「そうー? あ、まったくいなかったわけじゃないよ。漫画やアニメが好きだったから、オタク友達なら少しいた」
「え、先生ってオタクなんですか?」
翠ちゃんが先生のオタクネタに食いついた。ぐいっと先生の近くに寄って、目をきらきらと輝かせている。
「そ、そうだけどどうしたの?」
「わたしっ、好きなアニメがあるんですっ! でもクラスの子はあんまり見てなくて……。実里ちゃんがそのアニメを好きだって知って、それで仲良くなりたかったんです」
「なるほど、そういうことだったのね」
翠ちゃんがどうして二学期というこの時期に実里ちゃんと仲良くしたいと思ったのか、合点がいく。好きな漫画やアニメの話ができる友達って貴重だもんね。
「昔はさぁ、今みたいにオタクに対して優しくなかったんだよ。オタクってバレたら周囲からの風当たりが強くなる感じ。だから私たちオタクは常に生きを潜めて生きねばならなかったんですよ」
博士のような口調でメガネのフレームを持ち上げながら話すはーちゃん先生がおかしくて、私は翠ちゃんと顔を見合わせて「ぷっ」と吹き出した。
「なんか、考えられませんね。今、オタクだからってグループから追放されるみたいなことないですよ」
私は自分のクラスでのことを思い浮かべながら言う。漫画やアニメが好きだからって、「オタク」と罵られるような空気は、私のクラスにはない。むしろ、サブカル好きなクラスメイトは割りと多いので、オタク談義に花が咲くのが通常運転だ。
でも確かに平成の時代は——はーちゃん先生が子どもだった頃は、オタクの肩身が狭かったという話を聞いたことはあった。
「てか今って、オタクっていう言葉もあんまり使わないですよね。それってたぶん、推し活です」
私はふと心に思い浮かんだことを言葉にした。はーちゃん先生が目を丸くして足を止めた。
「確かに。あれは立派な推し活だったのよ」
嬉しそうに頬を綻ばせて再び歩き始めるはーちゃん先生が、一瞬少女のように見えた。いや、きっと先生の中にも、まだ少女時代の心が眠っているんだろう。推し活として好きな漫画やアニメを楽しんでいた先生は、今も好きなものを誇って、充実した日々を生きている。そんな先生の人生が垣間見えた気がして、私はなんだか嬉しかった。
「翠ちゃんは、この前の日曜日に実里ちゃんの家に初めて行ったんだっけ?」
「うん。家の場所はなんとなく聞いて知ってたけど、行ったのは初めて」
「そっか」
実里ちゃんとはこれから仲良くしようというところだったと言っていたので、初めてというのは確かに納得がいく。
「他には実里ちゃんの家に遊びに行くような友達はいなかったのかな?」
はーちゃん先生がどうしてそんな質問をしたのか分からないけれど、翠ちゃんの肩が微かに揺れるのが分かった。
「たぶん……いないと思います」
「それは本人がそう言ってたの?」
はーちゃん先生の質問に、翠ちゃんが首を横に振る。
「実里ちゃんから直接聞いたわけじゃなくて……。この前のレッスンの時にも言いましたけど、実里ちゃんって友達に囲まれてるようなタイプの子じゃないから。放課後に友達を家に呼ぶなんてこともしないかなって」
なんとなく歯切れが悪くなる翠ちゃんのことがどうしても引っかかる。はーちゃん先生も同じだったんだろう。私と顔を見合わせて、困ったように眉を下げた。
「そっか。でも実里ちゃんの気持ちも分かるわ。私も、子どもの頃友達が多いほうじゃなかったから。……って、これは今もそうなんだけどね!」
自虐ネタでその場の空気を和やかにしようとしているはーちゃん先生の心遣いに気づいて、私も翠ちゃんもふふっと笑みをこぼした。
「意外です。先生は友達が多そうだなと思ってました」
「そうー? あ、まったくいなかったわけじゃないよ。漫画やアニメが好きだったから、オタク友達なら少しいた」
「え、先生ってオタクなんですか?」
翠ちゃんが先生のオタクネタに食いついた。ぐいっと先生の近くに寄って、目をきらきらと輝かせている。
「そ、そうだけどどうしたの?」
「わたしっ、好きなアニメがあるんですっ! でもクラスの子はあんまり見てなくて……。実里ちゃんがそのアニメを好きだって知って、それで仲良くなりたかったんです」
「なるほど、そういうことだったのね」
翠ちゃんがどうして二学期というこの時期に実里ちゃんと仲良くしたいと思ったのか、合点がいく。好きな漫画やアニメの話ができる友達って貴重だもんね。
「昔はさぁ、今みたいにオタクに対して優しくなかったんだよ。オタクってバレたら周囲からの風当たりが強くなる感じ。だから私たちオタクは常に生きを潜めて生きねばならなかったんですよ」
博士のような口調でメガネのフレームを持ち上げながら話すはーちゃん先生がおかしくて、私は翠ちゃんと顔を見合わせて「ぷっ」と吹き出した。
「なんか、考えられませんね。今、オタクだからってグループから追放されるみたいなことないですよ」
私は自分のクラスでのことを思い浮かべながら言う。漫画やアニメが好きだからって、「オタク」と罵られるような空気は、私のクラスにはない。むしろ、サブカル好きなクラスメイトは割りと多いので、オタク談義に花が咲くのが通常運転だ。
でも確かに平成の時代は——はーちゃん先生が子どもだった頃は、オタクの肩身が狭かったという話を聞いたことはあった。
「てか今って、オタクっていう言葉もあんまり使わないですよね。それってたぶん、推し活です」
私はふと心に思い浮かんだことを言葉にした。はーちゃん先生が目を丸くして足を止めた。
「確かに。あれは立派な推し活だったのよ」
嬉しそうに頬を綻ばせて再び歩き始めるはーちゃん先生が、一瞬少女のように見えた。いや、きっと先生の中にも、まだ少女時代の心が眠っているんだろう。推し活として好きな漫画やアニメを楽しんでいた先生は、今も好きなものを誇って、充実した日々を生きている。そんな先生の人生が垣間見えた気がして、私はなんだか嬉しかった。



