オノマトペの友情リアリティーショー


・【06 繋ぎ繋がる】


 そんな感じで一日目は終了と言われて、残りの時間はそれぞれ1オノマトペで、好きなタイミングでプール近くのシャワー室で身体を洗ったり、ベッドが置いてある教室で休むということになった。
 ベッドのある教室同士はだいぶそれぞれ離れているらしく、僕の両隣は勿論誰もいなくて、同じ一階にはドスドスがいるだけで、他のメンバーは二階、三階、四階と振り分けられているみたいだ。
 どうやらこの時はカメラが無いので接触してはいけないらしい。何か寂しいなと思いつつ、スマホで適当に動画を見ていると、教室のドアがノックされて、何だろうと思いながら、ベッドから上体を起こして、
「はーい」
 と声をあげると、スタッフが入ってきて、
「ちょっとインタビューいいですか?」
 と言われて、あぁこれリアリティーショーでよくあるヤツだと思って、応じることになった。
 僕はベッドに座り、スタッフは教室の隅に追いやっている机とイス群から一脚、イスを取り出してそこに座って質問が始まった。
「一日目終わって、率直にどうですか?」
 リアリティーショーを見ていると、結構本音を述べているように見えるけども、実際はどうなんだろうか。
 あんまり生意気なこと言って、またドスドス・チクチク・ガリガリと同じチームにさせられても嫌なので、ここは謙虚にいくか。
「もういっぱいいっぱいで、すごく大変でした」
 と言ったところでスタッフの目の色が変わり、
「誰が一番大変でしたか?」
 と個人名を言わせようとするようなことを言ってきて、今のは失言だったと気付いた。
 できるだけこういうので個人攻撃したくないし、絶対その個人攻撃した相手と組まされるだろうからなぁ。
 ここは自分が出来なさ過ぎてという方向に振ろう。
「いや誰がとかじゃなくて自分が。自分が出来なさ過ぎて。ちょっと暴力行為も起きましたが、もっと自分でも何かできなかったかなぁ、って」
 スタッフはあからさまにつまらなそうな顔をした。
 やっぱり何か火種が欲しいように思える。
 でもその手には乗らず、僕はあくまで矢印を自分に向けて喋った。自分がこう、自分がどう、といった感じに。
 スタッフは気持ちを全面に顔や言動に出してくる。最後のほうはちょっと吐き捨てるような感じで同じような質問を繰り返しやられた。
 なんとかこっちの失言というか悪言(あくげん)を引き出したいかのように。でも僕は本当に気を付けて喋っていたので、ある意味スタッフが喜ぶようなことは言わなかった。
 スタッフはたいした挨拶もせずに「はいはい」と言いながら、教室から出て行った。
 本当にここのスタッフは態度が悪いと思う。同じオノマトペたちはまだ小学六年生だから許せるけども、スタッフはもう大人なので、正直許せない気持ちになる。
 リアリティーショーなんてギスギスすることをやるなら、せめてスタッフはちゃんとしていて欲しいんだけども。
 そんなことを思いながら、眠りにつくことにした。ベッドに横になって、目を瞑る。
 普通にしていると寝づらいけども、僕はベッドで身体を徐々にペラペラにしていくと眠れるというルーティンがあるので、それをやったら、結構すぐに寝れたと思う。
 二日目の朝は安そうな弁当が配られて、教室でそのまま食べた。ご飯と鮭とちくわの天ぷらしか入っていないヤツ。付属のタレは何故かポン酢オンリーだった。
 何をするかは言われていないけども、僕の予想では何らかのスポーツをするのでは、と睨んでいる。だから教室の中でストレッチや準備体操をしている。
 弁当が配られて一時間くらい経った時だろうか、スタッフから呼び出しがあり、体育館へ行き、どうやら全員体育館に呼び出されたみたいだ。
 周りを見渡すと、バスケットゴールが前に出されていたので、どうやらバスケットをするみたいだ。
 僕らの真ん中に立つスタッフが声を出した。
「今から二人一組のチームになってください。2on2のミニトーナメントをします」
 2on2という言い方なので、やっぱりバスケだ。でもまあバスケって言えばいいのに。スタッフはいちいち言葉足らずだと思う。
 僕は即座にトロトロに近付き、
「僕とペアになってほしい」
 と言うと、少し間があってから、
「トロトロは、トロトロしているから、弱いよ……?」
「ううん、僕はトロトロと仲良くなりたいから、一緒に組みたいんだ」
 まあ半分本当で半分は打算がある。
 何故ならこのバスケは勝つことが目標じゃないからだ。そりゃ勝ったらご褒美みたいなものがテレビ的にあるかもしれないけども、ここで勝ったからって全日本に選抜されるわけでは一切無い。
 この番組は友情リアリティーショーだ。つまり人間関係が良くなることが一番なのだ。
 こういう時は自分が誰かの足を引っ張る形になることが一番良くない方向に目を引いてしまう。リーダーシップから遠ざかってしまうと思う。
 大切なことは勝つよりも自分がダメに見えないこと。そしてダメなほうに優しくできれば、自分の人気もあがるというわけだ。
 トロトロは嬉しそうな顔で、
「こういうので、トロトロ、すぐに決まったこと、ないから、嬉しい……」
 と言ってくれて、こっちも本当に安堵の気持ちだ。
 思い切って手を握ると、トロトロは本当にトロトロな笑顔を見せてくれた。
 他の組み合わせはどうかなと高みの見物を決めると、ワクワクがキラキラを誘っているようだけども、キラキラが断ったみたいで、ワクワクが肩を落としている。
 キラキラとワクワクは両者ともに運動神経抜群そうだから、組んだら強いだろうなと思っていたけども、組まなくて良かった。
 いや勿論勝つことは目的じゃないけども、勝てるなら勝ちたいし、勝とうとする姿勢を見せることも大切だし。
 どうやらキラキラは自分がスターになれないと嫌みたいだ。発想が違うけども、答えは僕に似ているっぽい。
 キラキラはすぐにヌメヌメに話し掛けて、ヌメヌメとメンバーになることが決まったみたいだ。
 すると僕とトロトロに、ワクワクが近付いてきて、
「ちょっとぉ! どっちか俺と組んでよー!」
 と言ってきて、僕は勿論トロトロと組む気だけども、トロトロが困惑した面持ちになった。
 ワクワクは続ける。
「逆に何でトロトロはペラペラでいいのー!」
 ”で”いいの、かぁ……相変わらず言葉に悪意は感じられないけども、嫌な言い方をする子だ。
 トロトロは少し言いづらそうに、
「最初に、誘って、くれたから」
 するとワクワクが、
「じゃあ俺二番目だけども! 熱烈に誘うー! 絶対俺はバスケが上手い! 優勝できるからー! 俺と組んでー!」
 これは多分トロトロはなびかないと思う。トロトロは元々自分が遅くて優勝なんて狙えないと思っているだろうから。
 むしろ足かせになってしまうことを一番嫌うだろうから、と思って僕は、
「僕は純粋にトロトロと一緒にチームを組みたいんだ。勝つ負けるとか関係無く、楽しくやろうよ」
 するとトロトロは僕のほうを向きながら、パァッと明るい顔になり、
「やっぱり、トロトロは、ペラペラと、一緒の、チームが良い」
 ”が”良い! やっぱりトロトロはすごく良い子だ!
 ワクワクはまた一段と肩を落として諦めてくれたみたいだ。
 ドスドス・チクチク・ガリガリは何だか牽制し合って、チームは組んでいないらしい。
 するとワクワクはドスドスに話し掛けた。確かに僕もあの3オノマトペならドスドスを選ぶかもしれない。
 ドスドスが一番変わろうとしている節があるし、別に常時文句を言うわけでもない。
 きっとワクワクは運動神経抜群っぽいので、バスケで揉めるようなこともないだろうし、揉めなきゃドスドスは何があるわけでもない子だ。
 チクチクは常時文句を言っているようで、カレーを一緒に食べている時はそこまで悪態もつかなかった。
 でもガリガリ、あれは本当にダメだ、こうやって切り捨てて考えることも大切だと思う。
 チームも決まって、あみだくじでどのチームが闘うか決めるらしい。これは不正ナシだろうな。好きに棒を足してもいいという話だし。
 ホワイトボードに書かれたあみだくじに自分たちのペアを書いて好きに棒を足して、最後に対決するチームが決まるところをめくって、勝負スタート。
 チクチクとガリガリのペアと闘うことになった。もし不正があったなら、僕とワクワクのチームを闘わせていただろうな、と思った。
 それぞれ別々のゴールの下でアップして、五分後に試合という流れなんだけども、ずっとワクワクとドスドスのチームが揉めているようで、対角線の一番遠いところから、すごく大きな声が聞こえてくる。
 でもドスドスは手を出さずに耐えているようで、むしろ悪いのは空気を読まずに質問をしまくるワクワクのほうみたいだった。
 いや周りのことは気にせず、まずトロトロとコミュニケーションをとることだ。
 トロトロはコートの中間地点に立っていてもらって、僕がコート内を激しく上下するという作戦にした。
 トロトロは申し訳無さそうにしているが、多分これが一番勝率が高そうっぽい。一応やるからには勝ちを目指さないとスタッフの心証も悪そうだし。というわけで作戦はすぐに切りあげて、アップという名のトロトロの能力チェックを始めた。
 ついに試合開始ということになり、スタッフは事前にちゃんと説明していなかったけどもハーフコートということになったので、トロトロはハーフコートの中央の位置(3ポイントラインの手前くらい)に立ってもらうことにした。
 勝負の十五分間はチクチク・ガリガリペアのボールからスタートした。
 僕らのチームはマンツーマンじゃないので、それぞれのポジションに立つ。僕はゴール下に陣取っている。
 トロトロは図体がデカいけども、とにかく動作が遅く、全然ディフェンスはできていない。
 チクチクとガリガリに好き勝手にパスを回されて、チクチクがドフリーでシュートを放って、それがスパッと綺麗に決まって、まず先制されてしまった。
 既に僕は無駄に動かされて、息もほんの少しあがりそうだけども、とは言え僕は無駄に元気があるほうなので、全然平気。
 僕たちボールでスタートすると、チクチクとガリガリはマンツーマンをとっているようで、僕はチクチクに、トロトロはガリガリにマークされている。
 ただガリガリはガリガリでそんな運動神経が良いほうではなさそうで、トロトロがゆっくり旋回しても、あまりついていけているようには思えない。
 僕はチクチクのチェックをかわしつつ、ちょうど良いタイミングでトロトロにパスしたら、僕についていたチクチクがすぐにトロトロのほうを向き、それで焦ったのかトロトロはボールをファンブルして落としてしまい、すぐにチクチクが奪取し、ガリガリがハーフコートに戻って、パスを要求した。
 すぐにガリガリのマークに僕が移ると、チクチクはガリガリにパスをせず自らドリブルしてハーフコートに戻り、素早くターンしてそのままゴールへドリブルで直行し、そのままレイアップシュートを決めて、4点差に。
 トロトロは申し訳無さそうに、
「ゴメンねぇ……」
 と言うんだけども、ここが僕の見せ場というか真骨頂で、
「全然大丈夫! まずは闘いに慣れていこう!」
 と声を掛ける。トロトロも少し頬が和らいだところで、ガリガリが口を開き、
「もっと強い相手と闘いたいわぁ」
 と、つまらなそうに言って、チクチクも小声で「それ本当」と言い、またトロトロが落ち込んでしまった。
 でもトロトロが落ち込むところこそ僕の狙いなので、僕はまたやる気満々の声で、
「自分たちのベストを出していこう! 僕のポジションだけ気にして!」
 と声を掛けた。これはかなり良い見え方じゃないかと思いつつ、また僕たちのボールでスタート。
 僕がチクチクのチェックをかわしてドリブルで一気にゴールへ詰めると、トロトロについていたガリガリも僕に引きつけられて、僕はノールックでトロトロにパス。
 トロトロは絶対に同じ場所にいると分かっているので、思った通りにボールが収まり、チクチクとガリガリが踵を返して、ジャンプしたが、届かず、トロトロの3Pシュートが決まって、1点差に詰め寄った。
 そう、そうなのだ、トロトロは遅いだけで別に運動センスが無いわけではないとアップ中に分かったのだ。作戦を早く切りあげたことで分かった収穫。
 トロトロは学校ではボールを持たせてもらえる機会が無く、順番にシュートを撃つ授業でも番を抜かされたりしていて、自分ができるということを分かっていなかったみたいだけども、シュートを撃ってもらったらまあバンバン入る。何なら3ポイントのもっと後ろ、ハーフ近くからでも入ることが分かった。
 今はあえての3ポイントライン、ギリギリからのシュート。そこから徐々にトロトロには中央ではなくて、ハーフコート寄りに立っていき、さっきと同じだと思ってトロトロのシュートを止めに行くとギリ届かないという状態にするという作戦をアップ時間終了ギリギリで決めた。
 さらに僕はガリガリをけしかけて、仲間割れさせることにした。何故なら作戦がバッチリハマりそうな雰囲気になってきたからだ。
 僕は少し小声で、
「ガリガリが身体弱いから、吹き飛ばしてファールにしないようにしなきゃ」
 と言いながら、守備の位置につくと、トロトロについていたガリガリが一気に怒り心頭で、ゴール下の僕に近付いてきて、両手で僕を押し倒してきた。
 本当は倒れるほどの力はなかったけども、わざと倒れると、一応審判をしているスタッフが止めに入り、ガリガリは一分間コートの外に出ないといけなくなった。
 チクチクと僕は正直チクチクのほうが運動神経が上だ。でも一人になれば心細いし、パスする相手もいなくて、消耗が激しくなる。
 一人でもドリブルで単独突破するチクチクには正直脱帽だけども、攻撃の時は常にトロトロが3ポイントを決めるし、じゃあずっとトロトロにつくとなれば、そりゃ僕がドフリーで2ポイント決めるし、ガリガリがコートに戻ってきても、僕が意味ありげに溜息をつけば、すぐに突っかかってくるので、またコートの外に押し出せる。
 それを見かねたチクチクが明らかに大きな声で「は? 意味分かんねぇよ、ちゃんとやれや」とコート外にいるガリガリに言えば、すぐにガリガリは逆上してチクチクに突っかかり、場外で言い合いを始めた。
 トロトロは少し困惑しているっぽかったけども、僕はトロトロに「シュート撃っていいよ!」とサムアップすると、トロトロも意を決してシュートを放ち、3ポイントゲット。
 一応相手チームからのスタートだけども、スタッフも何か適当そうに、
「またペラペラが始めていいよ」
 となり、僕がすぐにトロトロにパスして、トロトロが正確無比のシュートでまた3ポイントを沈める、の繰り返し。
 結果、僕とトロトロのチームが圧勝し、向こうの対戦の勝者だったキラキラ・ヌメヌメのペアと闘うことになった。
 ちなみに敗者は敗者同士で闘うらしい。
 僕とトロトロは試合という名のシュート練習を行なっていたので、何だかトロトロの反応も少し早くなっているようだ。流れ作業で身に染みたみたいな。
 キラキラとヌメヌメのところもマンツーマンみたいで、僕にキラキラ、トロトロにヌメヌメがついている。
 まず僕たちのボールで、トロトロが大きく手をあげたところでそこめがけてパスをしようとした刹那だった。
「キラキラぁ!」
 とキラキラが叫ぶと、目の前が急に眩しくなり、手元が鈍って、パスがズレてしまった。
 そうか、キラキラはキラキラというオノマトペだから、キラキラさせることができるんだ。そう言えば前に、目元に流れ星を流していたような。
 自分固有の能力を使うという発想は無かったので、ビックリしてしまった。
 とは言え、僕がペラペラと薄くなっても力が弱くなるだけだから、あんま使えないよなと思っているうちに、ヌメヌメにシュートを決められて、先制された。
 僕ボールでスタートし、じゃあドリブル突破だと思ってキラキラをなんとかかわすと、今度はヌメヌメが、
「ヌメヌメ!」
 と言うと、急にボールがヌメヌメしてきて、ツルッと手からボールが離れてしまい、ヌメヌメがそれを拾って、すぐにハーフに立っていたキラキラにパスを出して、キラキラがドリブル開始。
 そこから余裕を持って、3ポイントシュートを放ち、もう5ポイント差に。
 まさかこんなにがっつり能力を使ってくるなんて。トロトロの能力って何だろうと思っているけども、その話はしていなかったので、こっちは普通にバスケをするしかない。
 初戦でやった作戦がハマった時もあったけども、じわじわと点差がついていき、最後は15ポイント差で負けが決まった。
 とは言え、結構善戦できたし、こっちとしてはかなりの充実感なんだけども、キラキラが僕へ、
「もっとちゃんと負け顔すればいいんじゃないの!」
 と軽く憤ってきた。
 僕とトロトロは顔を見合わせて、つい笑顔になってしまう。だって、
「普通に楽しかったから、これでいいかなって」
 と僕が言うと、トロトロも同調するように、
「うん、ペラペラと、一緒で、初めて、バスケが、楽しいと、思えた」
 と言ってくれて、何だかちょっとというか結構の打算があった自分が恥ずかしくも思えた。
 するとキラキラが、
「何だよそれ! ペラペラだけじゃないんよ! 吾輩とヌメヌメが相手だから最高に楽しかったんだろ!」
 と言いながらカッコつけ、その自己肯定感につい拍手してしまうと、トロトロも同時に拍手していて、何だか4オノマトペで吹き出して笑ってしまった。
 キラキラはヌメヌメと握手してから、
「まあヌメヌメと派手に勝てたから文句ナシなんよ!」
 と言った。
 ふと、負けたほう同士の試合に目をやると、何かスタッフを交えて大乱闘になっていることに気付いた。
 ずっと自分たちに夢中で気付かなかったけども、ガリガリがべそべそ泣いていて、ドスドスは勿論いつも小声のチクチクも二人で叫び合っていて、ワクワクは口にガムテープが貼られて、スタッフに抑えられていた。
 するとこっち側のスタッフが、
「逃げて逃げて、わたしたちも逃げるんで」
 と小声で言ったので、僕とトロトロとキラキラとヌメヌメはバレないように、体育館から出て、学校全体を使ってかくれんぼをして遊んだ。