それからまもなくして紅蓮の館が見えてきた。
今日は自動で扉は開かないらしい(むしろなぜ夕べ開いたのかのほうが謎だ。閉じたままなら抱かれたまま扉をくぐるなんてこともなかったのに)。
シャロンはいつものように扉を開け、皆を中に招く。
薄暗かった室内に明かりをともすと、ジェイク以外が驚きの声をあげた。
「これが、魔法の……」
ロイが目を丸くしてポツリとそう言った後、訝しげな表情になるのを見てシャロンはホッとした。
――ああ、大丈夫だ。きっとうまくいく。
「今から精霊を呼びますね。期待していいですよ、すっごく綺麗ですから!」
男性体でも女性体でも美しい紅蓮の館そのものの精霊。
「ミネルバ!」
シャロンの呼びかけに姿を現したのは女性体のミネルバだ。エルザたちが目がこぼれそうなほど夢中になって見ている前で、今度はくるりと一周回ると男性体に変化した。その自分の姿を見せつけるような精霊の姿に、シャロンはクスクス笑った。
「精霊には性別がないけれど、どちらも同じ精霊よ。名前はミネルバ。この紅蓮の館そのもので、私の養い親です」
「ミネルバだ」
シャロンの紹介に、男性体のミネルバが優雅に一礼する。それは王の臣下のようでもあり、ゼノンが思わずと言った風に「おお」と声を漏らした。同時にエルザが涙ぐみ、深く首を垂れる。
「姫を……カロン姫を助けていただき、まことにありがとうございます」
「礼には及ばぬ」
硬い口調ながらも人のように少し困ったような表情のミネルバに、ロイは目が離せないようだ。
「殿下、今から言ってほしいことがあるんです」
「ああ」
上の空のようにも見えるロイに、シャロンはある言葉を言うように頼んだ。
「お願いします」
シャロンが緊張と、少しだけいたずらのような気分で頭を下げると、ロイの表情が変わる。そして目を細めて周囲を見回してから、シャロンの頭をクシャリと撫でた。
「君はいい子だな」
突然大人びた表情で破顔したロイは、シャロンに小さく謝意の言葉を述べると、もう一度ミネルバを見て大きく頷いた。
「息災で何よりだ、ミネルバ。前より男らしさに磨きがかかったんじゃないか? 女性体も美しかったぞ。そんな手順を組んだ覚えはないんだがな。まあ、いいや。では姫のリクエストに応えよう。――ミネルバ、マスターとして命じる。テオドラ姫の行方を捜せ」
「承知しました」
ミネルバがもう一度頭を下げる。
「お帰りなさい、マスター」



