シャロンの安らかな寝息を確認し、ジェイクはようやく肩の力を抜く。手に巻いていたハンカチをスルッと外し、ロイに「悪いな」と言った。
シャロンが舌を噛まないようとっさに手を差し込んだのだが、寸前、電光石火の速さでロイが自分のハンカチをジェイクに巻いたのだ。おかげで噛まれてもそれほど傷にはならなかったが、このハンカチは返せないので謝った。
こういう時、阿吽の呼吸でしてほしいことや必要なことが出来るロイがそばにいたのは幸運だったのだろうか。とはいえ、青くなった友の端正な顔に苦笑する。突然姫君が苦しんでいたのだ。色々聞きたいことがあるのは当然だろう。
だがそれは後だ。
「ライクストン様も手当てを」
やはり青い顔をしたエルザの言葉に、ジェイクは首を振ってシャロンを抱き上げた。
「まずは彼女を休ませられるところへ。――あ、ぼくが連れて行ってもいいですか?」
今までの様子から彼女はジェイクの味方だとは思う。だが異国の男が姫君を抱き上げて運ぶのは問題だろうかと思い至り確認すると、エルザは大丈夫だと請け合った。
そして彼女は手早く周囲の後始末をすると、「こちらへ」と言って歩き始める。その後をロイとゼノンに挟まれるようにしてついて行き、昼寝用とみられる簡易的な寝台にシャロンを下ろした。
汗で張り付いたシャロンの前髪をかき上げ、だがその額に口づけたいのを我慢する。彼女の目の下には影が落ちているが、ほんのりと頬に血の気が戻っており、心底ホッとした。
本当にシャロンはよく頑張った。
封印を解く糸口を見つければ封印は解ける。だがそれを一気に解くには激痛が伴い、かなりの体力と精神力を必要する。――それを知識としては知っていたが、いざ苦しむ姿を目の前にすると、またシャロンを失うのではないかと気が気ではなかった。だが彼女は自分に「支えて」と言った。遠ざけるのではなく頼ってくれた。それが嬉しい。
そこにエルザが呼んだらしい他の侍女がやってきて、ジェイクの傷の手当てを始めた。苦しむシャロンが爪を立てたりしたため、シャツ越しとはいえ血がにじんでいる。女の子とは思えないほどすごい力で掴まれもしたが、それだけ苦しんでいたのだと思うと、もっと痛めつけてくれてもいいくらいだ。代わってやれないことがつらかったし、彼女にこんな思いをさせた何者かも憎い。
嘔吐するシャロンがほとんど吐けずに苦しんでるのを見て、彼女が今日、何も食べていないことを知った。たぶん表に見せているよりも不安だったのだろう。早く心の底から安心させてやりたいと思った。
「ライクストン様、ずいぶん傷だらけになってしまいましたね」
茶を持って来てくれたエルザが申し訳なさそうに頭を下げる。噛まれたあとや爪のあと、握られたところが少しアザにもなっていて驚いたが、同時にそれがとても愛おしく感じた。
「いえ。一番苦しんでいたのは彼女です。本当によく頑張りました」
我慢強いシャロンが、それでもこらえきれないほど苦しむ姿は、この侍女から見ても相当恐ろしかったことだろう。それでもジェイクの指示に従って、水や桶などを手際よく準備してくれたことには感謝しかない。
「姫様はもう大丈夫なのでしょうか」
今スヤスヤと眠るシャロンの様子は赤子のように安らかだが、不安には違いない。
だからジェイクはあえてにっこり笑って頷いて見せた。
シャロンが舌を噛まないようとっさに手を差し込んだのだが、寸前、電光石火の速さでロイが自分のハンカチをジェイクに巻いたのだ。おかげで噛まれてもそれほど傷にはならなかったが、このハンカチは返せないので謝った。
こういう時、阿吽の呼吸でしてほしいことや必要なことが出来るロイがそばにいたのは幸運だったのだろうか。とはいえ、青くなった友の端正な顔に苦笑する。突然姫君が苦しんでいたのだ。色々聞きたいことがあるのは当然だろう。
だがそれは後だ。
「ライクストン様も手当てを」
やはり青い顔をしたエルザの言葉に、ジェイクは首を振ってシャロンを抱き上げた。
「まずは彼女を休ませられるところへ。――あ、ぼくが連れて行ってもいいですか?」
今までの様子から彼女はジェイクの味方だとは思う。だが異国の男が姫君を抱き上げて運ぶのは問題だろうかと思い至り確認すると、エルザは大丈夫だと請け合った。
そして彼女は手早く周囲の後始末をすると、「こちらへ」と言って歩き始める。その後をロイとゼノンに挟まれるようにしてついて行き、昼寝用とみられる簡易的な寝台にシャロンを下ろした。
汗で張り付いたシャロンの前髪をかき上げ、だがその額に口づけたいのを我慢する。彼女の目の下には影が落ちているが、ほんのりと頬に血の気が戻っており、心底ホッとした。
本当にシャロンはよく頑張った。
封印を解く糸口を見つければ封印は解ける。だがそれを一気に解くには激痛が伴い、かなりの体力と精神力を必要する。――それを知識としては知っていたが、いざ苦しむ姿を目の前にすると、またシャロンを失うのではないかと気が気ではなかった。だが彼女は自分に「支えて」と言った。遠ざけるのではなく頼ってくれた。それが嬉しい。
そこにエルザが呼んだらしい他の侍女がやってきて、ジェイクの傷の手当てを始めた。苦しむシャロンが爪を立てたりしたため、シャツ越しとはいえ血がにじんでいる。女の子とは思えないほどすごい力で掴まれもしたが、それだけ苦しんでいたのだと思うと、もっと痛めつけてくれてもいいくらいだ。代わってやれないことがつらかったし、彼女にこんな思いをさせた何者かも憎い。
嘔吐するシャロンがほとんど吐けずに苦しんでるのを見て、彼女が今日、何も食べていないことを知った。たぶん表に見せているよりも不安だったのだろう。早く心の底から安心させてやりたいと思った。
「ライクストン様、ずいぶん傷だらけになってしまいましたね」
茶を持って来てくれたエルザが申し訳なさそうに頭を下げる。噛まれたあとや爪のあと、握られたところが少しアザにもなっていて驚いたが、同時にそれがとても愛おしく感じた。
「いえ。一番苦しんでいたのは彼女です。本当によく頑張りました」
我慢強いシャロンが、それでもこらえきれないほど苦しむ姿は、この侍女から見ても相当恐ろしかったことだろう。それでもジェイクの指示に従って、水や桶などを手際よく準備してくれたことには感謝しかない。
「姫様はもう大丈夫なのでしょうか」
今スヤスヤと眠るシャロンの様子は赤子のように安らかだが、不安には違いない。
だからジェイクはあえてにっこり笑って頷いて見せた。



