時をかけた騎士と紅蓮の館の白き魔女

「エルザ」

 歯を食いしばりながらもなんとか笑いかけると、エルザが「姫様!」と悲鳴に近い声を上げる。相当顔色がひどいようだと思い、必死に痛みを逃すため呼吸を整える。

「大丈夫。強い発作が……くっ……来るだけ。でも……ちょっと動くのは無理みたい。だから……ここでやり過ごすから――お願い、騒がないでいてね」
「姫!」

 ゼノンを振り切ったロイが駆け寄り、ジェイクに何事かと聞いてくる。医師を呼ぶと言うロイをシャロンが止めた。

「大丈夫です。ロイ様」

 ジェイクに支えられながらまっすぐにロイを見る。彼も心配して来てくれたことが分かったが、今騒がれては困るのだ。
 すっと息を細く吸い、集中して別の音を織り込む。

「以前あった事故の影響です。これから強い発作が起こりますが、手も口も出さないでくださいませ」

「だが!」

 どんどん顔色が白くなるシャロンに、なおも言いつのろうとしたロイの顔が、痛みで勝手に浮かぶ涙でグニャリと歪んで見える。

「対処は、ジェイクができます。彼がいるから大丈夫。っ……ですから決して、今から起こることは他言なさらないで」

 口出しを我慢してくれるジェイクに感謝しつつ一気に言い切り、エルザ達にロイを頼む。エルザたちは普段のカロンとは違う毅然とした風格に一瞬圧倒されたあと、すっと背筋を伸ばし「承知しました」と答えた。

 それにホッとした瞬間グラグラと視界が揺れ、強い痛みで吐き気が起こる。
 一瞬ジェイクにひどい姿の自分を見せたくないとも思ったが、背中にそえてくれる手の温かさにすがった。一人にしてと言う代わりに自分からも「支えて」と頼む。

「お願い、ジェイ…………っく」

 歯を食いしばりジェイクのシャツを握って痛みに耐える。頭の中で白い光が弾け、のたうち回るような苦痛と共に、何がなんだかわからなくなった。
 次々に映像が浮かびぐるぐる回る。
 途中舌をかまないようジェイクに助けられ、最後には胃の中のものを全部吐き出した。とはいえ、朝から飲み物を少し飲んだだけなので殆ど吐くものがない。吐きたいのに吐けず散々苦しんだ後、やがて霧が晴れるように痛みが消え、ぐったりとジェイクにもたれかかった。

「シャロン、大丈夫か」
「――ありがとう、ジェイク。もう‥‥‥大丈夫」

 シャロンは肩で息をし、汗でびっしょりになっていた。時間にすればほんの数分のはずだが、何日も苦しんだような気がして、ズブズブと体が泥の中に沈むようだ。
 いつの間に用意していたのか、エルザの差し出す水で口を漱ぎ、濡れたタオルで彼女に顔や首筋をぬぐってもらう。

「ありがとう、エルザ。もう……大丈夫。心配、ないわ」

 毅然としながらも涙目になっている侍女に礼を述べると、ホッと力が抜けて瞼が重くなってくる。蒼白になっているロイの顔が見えたが、あとはジェイクに任せようと思った。

「ごめん……、眠りそう……」
「うん。がんばったね。ゆっくりお休み」

 後は任せてというジェイクの声に安心し、シャロンはすうっと眠りに落ちていった。