時をかけた騎士と紅蓮の館の白き魔女

 突然シャロンから結婚式などと言われたジェイクは混乱した。
 長年の想いが通じたと、天にも昇る思いで口づけを交わしたのもつかの間、まるで姉に叱られているかのようなこの状況は何なのだ?

「あれ? 明日……あさって? あなたの結婚式でしょう⁈ それなのにこんな」

 いやいやをするように首を振り、自分の罪に慄《おのの》くようなシャロンの言葉にハッとする。

「シャロン、しっかりしろ! ぼくは君以外の人と結婚なんてしない」

 シャロンの手を離し、代わりに彼女の肩を掴んで軽くゆする。
 思い出したのか? どちらの過去を?

「ジェイク。だって貴方は」
「うん、ぼくは君が好きだ」

 何かとんでもないことを言われないうちに、事実だけを先に告げておく。言い知れぬ恐怖に、彼女の肩を掴む手に力が入らないよう制御するのに精いっぱいだった。

 思い出してくれたのなら嬉しいが、今告げてくれたはずのカロンの(・・・・)気持ち(・・・)を忘れてしまったら?
 カロンの気持ちとシャロンの気持ちが別だったら?
 突然足下が崩れ落ちそうな気持ちになり、必死にあらがう。

「私を好き? そんな、だって」
「泣かないでくれ」

 何かを恐れるかのように零れるシャロンの涙を、ポケットから出したハンカチでぬぐった。

「シャロンを愛してる」

 言い聞かせるようにはっきりと言う。
 頼む、届いてくれ!

 ジェイクの真剣な声に、シャロンの目が自信なさげに揺れるのがつらかった。

「……さまは?」
「えっ?」
「王女様と結婚するのよね? それとも別の女性?」

 シャロンの言っていることの意味が飲み込めず、
「王女ってカロン王女のこと?」
 と聞くとペシッと叩かれてしまった。ジェイクが肩を掴んでいることもあってか、その力がなんとも弱々しくて胸が痛む。

「本当に意味が分からないんだ。シャロン、落ち着いてゆっくり教えてくれ。誰の話をしているんだ?」
「ジェイク以外の誰がいるの」
「うん。でもぼくは、君以外の人と結婚はしないよ?」

 繰り返したそれは求婚にも等しい言葉だったが、ようやく彼女の耳に届いたらしく肩の力が抜けるのが分かった。

「何か思いだした?」

 シャロンの頭をそっと抱き寄せ甘やかすようにささやくと、ジェイクの胸で彼女が小さく頷くのが分かった。