耳にしたものをカロンは心の中で反芻し、コテンと首をかしげる。
「え……?」
ぽかんとしたカロンの手を強く握りなおしたジェイクは、もう一度
「シャロンが、好きだ」
と繰り返した。
「君が何も覚えていなくてもいい。でもぼくは初めて会った時から、十歳のあの日から、ずっとずっと君が好きなんだ」
「十歳?」
――私は、この人のことを知っていたの? 異国の人なのに?
右手を伸ばし、泣き出しそうに見えるジェイクの頬にそっと添える。
「ずっと君がシャロンだって、わかってて黙っていたんだ。すまない。謝るのはぼくのほうだ。君は何も悪くない」
首を回したジェイクの唇がカロンの手のひらに触れ、全身に震えが走った。
――彼は、最初から私を私だと知ってて、それでもただの女の子として見てくれていたの?
嬉しい。
そう思った瞬間に、ようやく彼の告白が意味を成してドスンと落ちてきた。慌てて彼から両方の手を離すと、再び左手を捕まえられてしまう。
「お願いだ。逃げないで。今だけ。頼む……」
「あの、逃げ……ません」
指先に口づけられ力が抜けた。
「ジェイク?」
本当に?
カロンの声にならない声でこぼれた疑問に彼はゆっくり頷き、
「少しだけ嘘」
とささやいた。
「ごめん、本当は愛してる」
「あ……」
上目遣いで申し訳ないとでも言うように愛を告げられ、こらえていたカロンの涙がこぼれた。
それを見たジェイクが顔を歪ませる。
「ごめん。こんなこと言われても意味が分からないだろうってわかってる。気持ち悪いと思う。――ゆうべ一晩君のことを考えてた。どうしたら君にとって最善かって。でも情けないことに、ぼくは自己中心らしい。少しでも君の近くにいたい。やっと会えたのに離れるなんて嫌だ。それしか考えられなかった。――ごめん。本当にごめん。君の隣に立てなくても、それでもそばにいたい。二度とこんな風に話せなくても、どこにいるのか分からないことに比べたらなんでもないんだ」
それは懺悔するような苦痛に満ちた声。彼の手から力が抜け、するりとカロンの手が落ちる。
「憐れな男だろ? だから君は何も気にしなくていいんだ。もし君を咎めるやつがいたらこう言えばいい。バカな男にそそのかされたんだって」
弱々しい笑みは二人の間に厚い壁を作ったようで、カロンはふるふると首を振った。
「ちがう。そんなの間違ってる。私は私の意思で行動したもの。貴方を騙したの」
バカなのは私だ。
「ジェイク。私が貴方に恋をしても、迷惑じゃない?」
「えっ?」
カロンの言葉に信じられないことを聞いたかのように目を見開いたジェイクは、まさかと言うように苦い笑みを浮かべる。
「恋を? ぼくに?」
自嘲に満ちた声を否定したくて、カロンは頷いた。
「――もう、してるの。大好きなの。止めたいのに止められないの」
ぽろぽろと言葉と涙が零れる。
「好きに、なってもいい? ダメじゃない?」
「ダメなわけがない! ずっと好きになってもらいたかった。四年前に君が去った時だって、どうにも諦めることができなかったんだ。この最後の仕事が終わったら君を追いかけようって思ってた。――むしろぼくが聞きたい。ぼくの気持ちは迷惑じゃない?」
「うん。うれしい」
どうにか答え微笑んだカロンの額に、コツンとジェイクが額を当て、ふふっと笑い合う。彼に涙をぬぐわれ、じわじわと幸せな気持ちに包まれた。
額を離し、見つめ合い、頬に口づけされて心の奥がくすぐったくなる。
「一緒に、いてくれる?」
「喜んで」
ジェイクの掠れた声と共に、ゆっくりと唇が重なる。
二度三度と口づけられ、カロンの頭の奥で、ふいにカチリと何かがはまった。
ジェイクを押しやり何度も瞬きを繰り返すカロンを、彼がいぶかし気に見つめ返す。
「シャロン?」
「――ジェイ、ク?」
眉を寄せながらジェイクの名を呼んだシャロンは、ハッとしたように口元に両手を当て真っ赤になり、「えっ? えっ?」と視線をさまよわせた。
「どうしたの? 口づけは嫌だった?」
「ち、ちがうわ。そうじゃなくて――」
ガバッと顔を顔をあげたシャロンは、ジェイクの顔を両手で挟んだ。
「ジェイク、あなた結婚式は?」
「はっ?」
「え……?」
ぽかんとしたカロンの手を強く握りなおしたジェイクは、もう一度
「シャロンが、好きだ」
と繰り返した。
「君が何も覚えていなくてもいい。でもぼくは初めて会った時から、十歳のあの日から、ずっとずっと君が好きなんだ」
「十歳?」
――私は、この人のことを知っていたの? 異国の人なのに?
右手を伸ばし、泣き出しそうに見えるジェイクの頬にそっと添える。
「ずっと君がシャロンだって、わかってて黙っていたんだ。すまない。謝るのはぼくのほうだ。君は何も悪くない」
首を回したジェイクの唇がカロンの手のひらに触れ、全身に震えが走った。
――彼は、最初から私を私だと知ってて、それでもただの女の子として見てくれていたの?
嬉しい。
そう思った瞬間に、ようやく彼の告白が意味を成してドスンと落ちてきた。慌てて彼から両方の手を離すと、再び左手を捕まえられてしまう。
「お願いだ。逃げないで。今だけ。頼む……」
「あの、逃げ……ません」
指先に口づけられ力が抜けた。
「ジェイク?」
本当に?
カロンの声にならない声でこぼれた疑問に彼はゆっくり頷き、
「少しだけ嘘」
とささやいた。
「ごめん、本当は愛してる」
「あ……」
上目遣いで申し訳ないとでも言うように愛を告げられ、こらえていたカロンの涙がこぼれた。
それを見たジェイクが顔を歪ませる。
「ごめん。こんなこと言われても意味が分からないだろうってわかってる。気持ち悪いと思う。――ゆうべ一晩君のことを考えてた。どうしたら君にとって最善かって。でも情けないことに、ぼくは自己中心らしい。少しでも君の近くにいたい。やっと会えたのに離れるなんて嫌だ。それしか考えられなかった。――ごめん。本当にごめん。君の隣に立てなくても、それでもそばにいたい。二度とこんな風に話せなくても、どこにいるのか分からないことに比べたらなんでもないんだ」
それは懺悔するような苦痛に満ちた声。彼の手から力が抜け、するりとカロンの手が落ちる。
「憐れな男だろ? だから君は何も気にしなくていいんだ。もし君を咎めるやつがいたらこう言えばいい。バカな男にそそのかされたんだって」
弱々しい笑みは二人の間に厚い壁を作ったようで、カロンはふるふると首を振った。
「ちがう。そんなの間違ってる。私は私の意思で行動したもの。貴方を騙したの」
バカなのは私だ。
「ジェイク。私が貴方に恋をしても、迷惑じゃない?」
「えっ?」
カロンの言葉に信じられないことを聞いたかのように目を見開いたジェイクは、まさかと言うように苦い笑みを浮かべる。
「恋を? ぼくに?」
自嘲に満ちた声を否定したくて、カロンは頷いた。
「――もう、してるの。大好きなの。止めたいのに止められないの」
ぽろぽろと言葉と涙が零れる。
「好きに、なってもいい? ダメじゃない?」
「ダメなわけがない! ずっと好きになってもらいたかった。四年前に君が去った時だって、どうにも諦めることができなかったんだ。この最後の仕事が終わったら君を追いかけようって思ってた。――むしろぼくが聞きたい。ぼくの気持ちは迷惑じゃない?」
「うん。うれしい」
どうにか答え微笑んだカロンの額に、コツンとジェイクが額を当て、ふふっと笑い合う。彼に涙をぬぐわれ、じわじわと幸せな気持ちに包まれた。
額を離し、見つめ合い、頬に口づけされて心の奥がくすぐったくなる。
「一緒に、いてくれる?」
「喜んで」
ジェイクの掠れた声と共に、ゆっくりと唇が重なる。
二度三度と口づけられ、カロンの頭の奥で、ふいにカチリと何かがはまった。
ジェイクを押しやり何度も瞬きを繰り返すカロンを、彼がいぶかし気に見つめ返す。
「シャロン?」
「――ジェイ、ク?」
眉を寄せながらジェイクの名を呼んだシャロンは、ハッとしたように口元に両手を当て真っ赤になり、「えっ? えっ?」と視線をさまよわせた。
「どうしたの? 口づけは嫌だった?」
「ち、ちがうわ。そうじゃなくて――」
ガバッと顔を顔をあげたシャロンは、ジェイクの顔を両手で挟んだ。
「ジェイク、あなた結婚式は?」
「はっ?」



