月明かりの中、ジェイクは今朝早くカロンに連れて行ってもらった四阿へと向かった。今朝の出来事はすべて偶然だが、ちょうど紅蓮の館が見下ろせるこの場所は、人目につかないいい場所でもあった。
今夜の王宮内は晩餐と軽業師の見世物などでにぎわっているが、カロン王女は体調不良ということで姿を見せていない。おそらく昼間外に出るために、そういうことにしていたのだろうと思うと、ジェイクの頬が少し緩む。
心が狭いと思われようが、彼女を見て鼻を伸ばす野郎の姿など目にして面白いはずもないのだ。
今日は久々に味わう幸福な時間だった。
苦しいくらい胸がざわめくと同時に、穏やかで温かな気持ちで満たされた。
今朝待ち合わせた場所まで送り届け、彼女と別れた瞬間から、もう会いたくてたまらない。
周りに人影がないことを確認し、柵代わりの植え込みを乗り越えて急な崖を降りていく。通常であれば不可能に近いが、今はミネルバが作った見えない道があるおかげで、十分も走らないうちに館にたどり着いた。四年ぶりに触れる扉に少しだけ緊張する。
いつも明るかった室内は仄かな明かりに照らされ、また違う場所、違う時に来たような錯覚を覚える。
「ミネルバ」と呼んでみると、男性体のミネルバがその姿を現した。師匠の姿なので、ジェイクは丁寧に礼をする。同じ個体でも女性体の時とは違い、少し緊張感があるのが不思議だ。
「ジェイク、何かわかったことは?」
時々姿がぶれながら、いつもよりザラッとした声でミネルバが言った。王宮を含む、この辺り一帯に張り巡らされた結界の影響はゼロではないようだ。そのせいで昨日はまったく連絡が取れなかったので気になっていたことだろう。
「シャロンは師匠の言った通り王女になってました。本当に記憶はないみたいだ」
そして今日の出来事を話す。今朝偶然会えたこと。一緒に市に出かけたこと。だが、うっかり告白をしてしまったことは黙っていた。幸か不幸か、彼女に通じていないことは確かだから問題ないだろう。
――あの笑顔は本当に、もう、そこらの野盗の刃なんかより、よっぽど殺傷能力が高いだろう?
思い出すだけで心臓が止まりそうな思いがするし、顔が熱くなる。
世辞だと分かっていても、『ドキドキする』などと満面の笑みで言われたため、本気で死ぬかと思ったのだ。いつからこんな初心になったんだと自分に呆れる。
それは彼女に記憶がないからだと分かっているし、本気でもないだろう。
それでも悶えるほどの歓喜が溢れる。
市場から部屋に戻り、ロイたちから訳知り顔でニヤリと笑われた時は無表情でやり過ごしたが、まるで乙女にでもなったような気持ちだ。今のジェイクは十八歳でも中身は二十八歳だし、前世でもそれなりの経験も積んでたはずなのに情けない。
今夜の王宮内は晩餐と軽業師の見世物などでにぎわっているが、カロン王女は体調不良ということで姿を見せていない。おそらく昼間外に出るために、そういうことにしていたのだろうと思うと、ジェイクの頬が少し緩む。
心が狭いと思われようが、彼女を見て鼻を伸ばす野郎の姿など目にして面白いはずもないのだ。
今日は久々に味わう幸福な時間だった。
苦しいくらい胸がざわめくと同時に、穏やかで温かな気持ちで満たされた。
今朝待ち合わせた場所まで送り届け、彼女と別れた瞬間から、もう会いたくてたまらない。
周りに人影がないことを確認し、柵代わりの植え込みを乗り越えて急な崖を降りていく。通常であれば不可能に近いが、今はミネルバが作った見えない道があるおかげで、十分も走らないうちに館にたどり着いた。四年ぶりに触れる扉に少しだけ緊張する。
いつも明るかった室内は仄かな明かりに照らされ、また違う場所、違う時に来たような錯覚を覚える。
「ミネルバ」と呼んでみると、男性体のミネルバがその姿を現した。師匠の姿なので、ジェイクは丁寧に礼をする。同じ個体でも女性体の時とは違い、少し緊張感があるのが不思議だ。
「ジェイク、何かわかったことは?」
時々姿がぶれながら、いつもよりザラッとした声でミネルバが言った。王宮を含む、この辺り一帯に張り巡らされた結界の影響はゼロではないようだ。そのせいで昨日はまったく連絡が取れなかったので気になっていたことだろう。
「シャロンは師匠の言った通り王女になってました。本当に記憶はないみたいだ」
そして今日の出来事を話す。今朝偶然会えたこと。一緒に市に出かけたこと。だが、うっかり告白をしてしまったことは黙っていた。幸か不幸か、彼女に通じていないことは確かだから問題ないだろう。
――あの笑顔は本当に、もう、そこらの野盗の刃なんかより、よっぽど殺傷能力が高いだろう?
思い出すだけで心臓が止まりそうな思いがするし、顔が熱くなる。
世辞だと分かっていても、『ドキドキする』などと満面の笑みで言われたため、本気で死ぬかと思ったのだ。いつからこんな初心になったんだと自分に呆れる。
それは彼女に記憶がないからだと分かっているし、本気でもないだろう。
それでも悶えるほどの歓喜が溢れる。
市場から部屋に戻り、ロイたちから訳知り顔でニヤリと笑われた時は無表情でやり過ごしたが、まるで乙女にでもなったような気持ちだ。今のジェイクは十八歳でも中身は二十八歳だし、前世でもそれなりの経験も積んでたはずなのに情けない。



