「彼女がそのまま幸せであるならそれでもいい。だが、何も分からない状態なのは耐えられない」
と、精霊は人間のような仕草でジェイクにそう訴えた。
「ジェイク、護衛の仕事を受けろ」
「はい」
もしミネルバが来なければ、悩んだ末にネイディア行きを断ったかもしれない。そう考えるとぞっとする。まかり間違ってシャロンがロイを気に入って……なんてことを考えただけでも血が沸騰しそうだ。ロイはいい奴だ。だがダメだ。渡せない。
コンラッドと共に、第三王子であるロイにも友人として事情を話した。ロイは子どものころから知っているジェイクの恋する相手にも興味津々だったため、いたずらっぽい顔で協力を約束してくれた。
「ジェイクの女神がどんな女の子なのか興味あったんだよね。その彼女のために、領主の座も叔母上との結婚も蹴ったんだろ」
内緒にしていたことをズバリ指摘され、ジェイクは一瞬言葉に詰まる。
「っ、うるさいぞ、ロイ。その口を縫われたくなければ黙れ」
「おお怖っ。でもそうかぁ。王女様かもしれないのか。少し楽しみだったんだけどな」
ふざけて嘆いて見せる友人の顔を見て、ジェイクは盛大に顔をしかめた。決闘をすれば負けない自信はあるが、地位や顔は負ける。何も覚えていないまっさらな状態のシャロンが、この男に恋をしないという保証はどこにもないのだ。
「もし、彼女がお前を選んだなら、ちゃんと祝福してやるから安心しろ」
歯を食いしばってそう言うと、ロイはからからと笑った。
「そんな呪い殺しそうな声で祝福とか言われて信用できるかよ。ま、ちゃんと応援してやるから安心しろって」
「面白がるな」
「いいや、面白いね。楽しみだよ」
そして昨夜。時をさかのぼってから二度目の出会い。
今度も彼女は何も覚えていないが、ジェイクのほうは覚えている。今度は記憶は消えないのだから。
気が高ぶってほとんど眠ることが出来ず、夜明け前にフラフラしていた時、女官の振りをしたシャロンに偶然会えた。
自然とつながれた手や、変わらない目の輝き。
彼女に髪を編まれている間は、うるさい心臓の音がバレるんじゃないかと気が気じゃなかったし、森の中にある紅蓮の館の姿を見ながら、彼女が思い出すことを期待した。
自然と隣に立ち、微笑み合い……。その唇に触れたい衝動を懸命にこらえた。
どうやって近づけばいい。もう二度と離れたくない。
どうすれば手に入れられるのだろう。どうすればぼくを好きになる?
全く知らない男として彼女の心を手に入れるにはどうしたらいい。
刻一刻と強くなる想いに身がよじれそうだ。
もう失敗はできない。これはきっと最後の機会だ。気を引き締めなければ。
「ライクストン様、お待たせしてすみません」
名前を呼ばれ振り向くとシャロンが立っていた。すっぽり全身を包むストンとしたワンピースを着た彼女は、ベールで髪を隠し、この国の独身女性らしく鼻と口も小さなベールで隠している。だがキラキラ輝く青灰色の目は、楽しそうにジェイクを見ているので、心臓がまたうるさく騒ぎだした。
「いや、ぼくも今来たところだよ、ブランシュ。じゃあ行こうか」
無意識に手を差し出してしまい、ここは何もしないか肘を出したほうがよかったのかと焦ったが、シャロンは自然にジェイクの手を握ってにっこり笑った。
――まずい、めちゃくちゃ可愛い。
彼女に熱くなった頬を見られないようさりげなく顔を背け、それでも少しだけ強く小さな手を握り返す。暴れだす心臓が早く落ち着かないと、市場を見る前に倒れてしまいそうだと情けない気持ちになった。
と、精霊は人間のような仕草でジェイクにそう訴えた。
「ジェイク、護衛の仕事を受けろ」
「はい」
もしミネルバが来なければ、悩んだ末にネイディア行きを断ったかもしれない。そう考えるとぞっとする。まかり間違ってシャロンがロイを気に入って……なんてことを考えただけでも血が沸騰しそうだ。ロイはいい奴だ。だがダメだ。渡せない。
コンラッドと共に、第三王子であるロイにも友人として事情を話した。ロイは子どものころから知っているジェイクの恋する相手にも興味津々だったため、いたずらっぽい顔で協力を約束してくれた。
「ジェイクの女神がどんな女の子なのか興味あったんだよね。その彼女のために、領主の座も叔母上との結婚も蹴ったんだろ」
内緒にしていたことをズバリ指摘され、ジェイクは一瞬言葉に詰まる。
「っ、うるさいぞ、ロイ。その口を縫われたくなければ黙れ」
「おお怖っ。でもそうかぁ。王女様かもしれないのか。少し楽しみだったんだけどな」
ふざけて嘆いて見せる友人の顔を見て、ジェイクは盛大に顔をしかめた。決闘をすれば負けない自信はあるが、地位や顔は負ける。何も覚えていないまっさらな状態のシャロンが、この男に恋をしないという保証はどこにもないのだ。
「もし、彼女がお前を選んだなら、ちゃんと祝福してやるから安心しろ」
歯を食いしばってそう言うと、ロイはからからと笑った。
「そんな呪い殺しそうな声で祝福とか言われて信用できるかよ。ま、ちゃんと応援してやるから安心しろって」
「面白がるな」
「いいや、面白いね。楽しみだよ」
そして昨夜。時をさかのぼってから二度目の出会い。
今度も彼女は何も覚えていないが、ジェイクのほうは覚えている。今度は記憶は消えないのだから。
気が高ぶってほとんど眠ることが出来ず、夜明け前にフラフラしていた時、女官の振りをしたシャロンに偶然会えた。
自然とつながれた手や、変わらない目の輝き。
彼女に髪を編まれている間は、うるさい心臓の音がバレるんじゃないかと気が気じゃなかったし、森の中にある紅蓮の館の姿を見ながら、彼女が思い出すことを期待した。
自然と隣に立ち、微笑み合い……。その唇に触れたい衝動を懸命にこらえた。
どうやって近づけばいい。もう二度と離れたくない。
どうすれば手に入れられるのだろう。どうすればぼくを好きになる?
全く知らない男として彼女の心を手に入れるにはどうしたらいい。
刻一刻と強くなる想いに身がよじれそうだ。
もう失敗はできない。これはきっと最後の機会だ。気を引き締めなければ。
「ライクストン様、お待たせしてすみません」
名前を呼ばれ振り向くとシャロンが立っていた。すっぽり全身を包むストンとしたワンピースを着た彼女は、ベールで髪を隠し、この国の独身女性らしく鼻と口も小さなベールで隠している。だがキラキラ輝く青灰色の目は、楽しそうにジェイクを見ているので、心臓がまたうるさく騒ぎだした。
「いや、ぼくも今来たところだよ、ブランシュ。じゃあ行こうか」
無意識に手を差し出してしまい、ここは何もしないか肘を出したほうがよかったのかと焦ったが、シャロンは自然にジェイクの手を握ってにっこり笑った。
――まずい、めちゃくちゃ可愛い。
彼女に熱くなった頬を見られないようさりげなく顔を背け、それでも少しだけ強く小さな手を握り返す。暴れだす心臓が早く落ち着かないと、市場を見る前に倒れてしまいそうだと情けない気持ちになった。



