時をかけた騎士と紅蓮の館の白き魔女

 ジェイクは待ち合わせの場所で大きく深呼吸をした。手が小刻みに震えている気がしてギュッと拳を握りしめる。

「くそっ、落ち着け」

 自分に対して小さく悪態をつき周囲を見回した。シャロン、いや、ブランシュはまだ来ていない。


 昨夜カロン王女を目にした時、ジェイクは息をするのも忘れた。元々美しいと思っていたが、大人になり、王女として飾り立てられた彼女は光輝かんばかりの美しさで、貪るように見つめてしまいそうになるのを必死に我慢した。

 ――やっぱり好きだ。

 四年ぶりだからといって忘れられるものか。
 だが彼女がジェイクを、いやそれ以前に、彼女がシャロンだったことを完全に忘れていることは確かのようだ。
 それでも好きだと思った。姿を見てしまったら、やっぱりどうしようもないくらい好きだと再確認してしまった。

 どこかで元気で笑っていてくれるだけでいいなんて嘘だ。姉や妹になんて見えない。側にいたいし、いてほしい。その目に映りたいし、息もできないくらいこの腕の中に抱きしめたい。

 宴の席でロイ――いや、第三王子に「彼女はいるか?」と尋ねられ、王女がそうだと答えた。シャロンを見て鼻の下を伸ばしていたのには少し(いや、かなり)ムカついたが、それは王子だけではない。あれだけ綺麗なのだ、男なら当然の反応だ。それでもやはりムカつく。
 この国のドレスはそれでなくても肌の露出が多いことに驚いたのに、彼女が歩くたびにちらちら見える白い足や、ゆったりしたボディスの裾からのぞくほっそりした腹に体中の血が上り、この場にいる全員の目をつぶしたくなった。
 無意識に「彼女はぼくのものだ」とけん制してしまったが、仕方がないことだろう。



 男性体のミネルバが現れたあの夜、偶然コンラッドに見られてしまった。

 ミネルバによれば、シャロンが帰ってこないこと、どうやらネイディアの王宮に捕らわれているらしいことを聞き驚いた。王宮の内外に大きな結界が張られたうえ、その影響で紅蓮の館の燃料の調達ができず動くこともできない。ありとあらゆる線をたどり、ようやくミネルバの思念体だけはジェイクのところにたどり着いたとのことだった。

「それでシャロンは無事なのか?」

 恐怖で青ざめるジェイクの代わりにコンラッドが尋ねる。

「ああ。だがおそらく記憶を縛られ、女官だと思わされているか、もしくは王女にされている可能性がある」
「どうしてそんな……」

 そこで語られた事情は驚くことばかりだったが、今は彼女の側に駆けつけたかった。宴に招待されていたのは偶然だろうか。王女の婿を探しているらしいという話にミネルバは、「では、その王女がシャロンの可能性が高いな」と言った。