ただ、魔法が使えない今のジェイクでは、シャロンの居場所はなかなかつかめなかった。
魔女のうわさがささやかれるようになったのは三か月ほど前からだ。紅蓮の館、別名魔女の図書館がこの土地に向かっているらしい、と。
それはシャロンの住む、動く館だ。
だがその館がこの土地に腰を落ち着けても、ジェイクはもとより、誰もそこに行くことはできない。
館は侵入者を拒むから、ジェイクはあの日と同じ状況、条件がそろうのを待つしかなかった。
それで会える確信はなかったが、なんとか半年も早く会うことが出来たことにホッとした。
デュランの腹を撫で、ジェイクはさっきの出来事に思いをはせる。
少しだけ眉が寄り、難しい表情になった。
「なぜだろう。半年も早く彼女と会えたのに、あったことは前と全く同じだったんだ」
やり直しを始めて以来、こんなことは初めてだ。
懐かしい館を見つけたときまでは、たしかに覚えていたのだ。だが彼女に会った瞬間、ジェイクは大切な「未来の記憶」を忘れた。
まるで初めてあったことのように繰り返される出会い、会話。
季節は違うのに、まるっきり同じ出来事。
「我ながら、めちゃくちゃ子どもっぽかったよ。少しでもかっこいい姿で再会したかったのに」
実際十歳同士だし、起こったことそのままなのだが、それでも頭の中は二十歳の男なのだ。あまりにも子どもっぽい自分の言動に頭を抱えるが、同時に懐かしくて胸が締め付けられて驚く。
「でも今までいくつかの出来事を変えてきたけど、こんなことは一度もなかった。なのにどうして……」
前の人生でシャロンと初めて会ったのは、今より半年も先の冬だった。
あの日、狩りではぐれて迷子になり、腹を空かせて心細かったジェイクをシャロンが見つけてくれた。自分よりも小柄な女の子が、暖かい部屋で偉そうにスープをごちそうしてくれたのだ。
あの日、初めて会う魔女に、見たこともない調度品、そして噂の館に入れたことに興奮した。魔法を見ることはできなかったが、あの日の出来事は生涯忘れることはできないだろう。
以来何度も通って過ごした館なのに、今日起こったことはまるで初めてのような会話、気持ちだったことに我ながら戸惑いが隠せない。彼女の前に出ると、魔法の力に何か影響があるのだろうか。
未来の記憶を持ったまま子供に戻ったのは、確実に魔法の力だからだ。
「なんとなく、それはシャロンも同じような気がしてたんだけど、それはぼくだけだったってことなんだろうな」
ちょっとだけ感じる落胆。
再会を心待ちにしてたのは自分だけだったのが、少し寂しい。
でも仕方がない。今のシャロンにとって、実際自分は初対面なのだから。
白っぽい髪をおさげにした、生意気で可愛いシャロン。
でもあと八年もすれば美しい青灰色の目はそのままに、白っぽい髪は輝くような金色になる。まろやかな曲線を描く身体は、どこまでも女らしく魅惑的だ。小生意気に上がるあごも、少しとがらせた唇も、本当はすべてが震えるほど美しいと思った。のどがカラカラになるほど渇望した。なのに気付かないふりをした。
あの頃のジェイクは、魔女であるシャロンを特別な友人で、大切な家族だと思いこんでいた。それは一生変わらないと思っていたのだ。
自分の気持ちに目隠しをしていたのは、それを認めることで、シャロンを失うのが怖かったからなのだろうか。
だけどこの二年で、父と母、姉のことは守れた。
あの小悪党はもういない。
次はシャロン――君だ。
今度こそ君を守る。
たとえ君がぼくを覚えていなくても。
魔女のうわさがささやかれるようになったのは三か月ほど前からだ。紅蓮の館、別名魔女の図書館がこの土地に向かっているらしい、と。
それはシャロンの住む、動く館だ。
だがその館がこの土地に腰を落ち着けても、ジェイクはもとより、誰もそこに行くことはできない。
館は侵入者を拒むから、ジェイクはあの日と同じ状況、条件がそろうのを待つしかなかった。
それで会える確信はなかったが、なんとか半年も早く会うことが出来たことにホッとした。
デュランの腹を撫で、ジェイクはさっきの出来事に思いをはせる。
少しだけ眉が寄り、難しい表情になった。
「なぜだろう。半年も早く彼女と会えたのに、あったことは前と全く同じだったんだ」
やり直しを始めて以来、こんなことは初めてだ。
懐かしい館を見つけたときまでは、たしかに覚えていたのだ。だが彼女に会った瞬間、ジェイクは大切な「未来の記憶」を忘れた。
まるで初めてあったことのように繰り返される出会い、会話。
季節は違うのに、まるっきり同じ出来事。
「我ながら、めちゃくちゃ子どもっぽかったよ。少しでもかっこいい姿で再会したかったのに」
実際十歳同士だし、起こったことそのままなのだが、それでも頭の中は二十歳の男なのだ。あまりにも子どもっぽい自分の言動に頭を抱えるが、同時に懐かしくて胸が締め付けられて驚く。
「でも今までいくつかの出来事を変えてきたけど、こんなことは一度もなかった。なのにどうして……」
前の人生でシャロンと初めて会ったのは、今より半年も先の冬だった。
あの日、狩りではぐれて迷子になり、腹を空かせて心細かったジェイクをシャロンが見つけてくれた。自分よりも小柄な女の子が、暖かい部屋で偉そうにスープをごちそうしてくれたのだ。
あの日、初めて会う魔女に、見たこともない調度品、そして噂の館に入れたことに興奮した。魔法を見ることはできなかったが、あの日の出来事は生涯忘れることはできないだろう。
以来何度も通って過ごした館なのに、今日起こったことはまるで初めてのような会話、気持ちだったことに我ながら戸惑いが隠せない。彼女の前に出ると、魔法の力に何か影響があるのだろうか。
未来の記憶を持ったまま子供に戻ったのは、確実に魔法の力だからだ。
「なんとなく、それはシャロンも同じような気がしてたんだけど、それはぼくだけだったってことなんだろうな」
ちょっとだけ感じる落胆。
再会を心待ちにしてたのは自分だけだったのが、少し寂しい。
でも仕方がない。今のシャロンにとって、実際自分は初対面なのだから。
白っぽい髪をおさげにした、生意気で可愛いシャロン。
でもあと八年もすれば美しい青灰色の目はそのままに、白っぽい髪は輝くような金色になる。まろやかな曲線を描く身体は、どこまでも女らしく魅惑的だ。小生意気に上がるあごも、少しとがらせた唇も、本当はすべてが震えるほど美しいと思った。のどがカラカラになるほど渇望した。なのに気付かないふりをした。
あの頃のジェイクは、魔女であるシャロンを特別な友人で、大切な家族だと思いこんでいた。それは一生変わらないと思っていたのだ。
自分の気持ちに目隠しをしていたのは、それを認めることで、シャロンを失うのが怖かったからなのだろうか。
だけどこの二年で、父と母、姉のことは守れた。
あの小悪党はもういない。
次はシャロン――君だ。
今度こそ君を守る。
たとえ君がぼくを覚えていなくても。



