時をかけた騎士と紅蓮の館の白き魔女

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 宴の一日目は夜会だ。
 ほぼ客の紹介になるため、カロンたち王族はクッションを敷き詰めた東屋のような席に座り、ほぼ動くことはない。次々にあいさつに来る客に笑顔を返し、あとはその客らがおいしく料理を食べているか、つまらなそうにしてないか気を配るくらいだ。

 国内外からは男性客が多いが国内からは女性の客が多く、文化の違う衣装が入り乱れ、まるで花園のようだとカロンはほおっと息をつく。
 外に浮かぶ月が見えるころ、最後の客であるイズィナ国の第三王子の一団が、挨拶と祝いの言葉を述べにやってきた。
 王子の年の頃はカロンと同じくらいだろうか。
 利発そうな明るい茶色の目がキラキラとした王子の登場に、カロンの後ろに控える女官たちが小さく悲鳴を上げるのが聞こえ、カロンは思わずにっこりした。噂話を思い返すに、この王子はうちの女性陣からは一番の人気者らしい。

 ――最後のお客様だし、少し長めに引き留めましょうか。

 女官らが喜ぶよう、カロンは立ち上がって彼らのそばまで数歩歩いた。
 カロンの衣装は、彼らと一緒にいる女性達のものとは形がずいぶん違う。イズィナのような海の向こうの国のドレスは、上半身は体にぴたりとしながら、スカートは花のように大きく広がる形が主流だ。だがカロンのドレスは、薄い花びらのような布を幾重にも重ねてあり、歩くたびに腰まわりの飾りがシャラシャラと音を立て、スカートからは足がちらりちらりと覗く。ティアラで留めたベールは膝まで届くのは王女だからだが、それ以外はこちらの国ではごく普通のドレスだ。だが王子たちの頬が赤く染まったのを見てカロンは首を傾げた。見慣れないドレスに戸惑っているのだろうか。でもこの国の女性のドレスはみな似たり寄ったりなのだが……。

「遥々、ようこそいらっしゃいました」

 優雅に座りなおし笑顔でそう告げ、王子たち一団に顔をあげるように促す。
 ベールを直してくれた女官の頬も染まっていて嬉しそうなので、カロンはこのまま少し話でもしようかと客人らに飲み物を勧めた。
 普段は椅子の文化である客人らは、クッションに座るのが少し落ち着かな気だったが、女官らが気を配り飲み物を口にする頃には皆に笑顔が浮かんでいた。

 全員が寛げているか全体を見回したとき、王子のすぐ後ろに控えていた男と目が合う。やはり年のころはカロンと同じくらいか。今まで影のように王子の後ろに控えていた男はカロンと目が合ったまま、時が止まったような錯覚を起こした。
 月夜のような青味のかかった黒髪、晴れた日の海のような青い目。引き結ばれたその口元に、ほんの少しだけ笑みが浮かぶ。
 その瞬間吸い込まれそうな感覚に襲われ、カロンの胸の内がクラッとゆれた。まだ声も聞いていないというのに、何かささやかれたような錯覚を起こす。

 ――誰?

 声には出してないはずなのに第三王子が彼に何か耳打ちすると、男はスッと立ち上がってカロンのそばに跪いた。そしてカロンのベールの裾を手に取りそこに口づけると、まるでからめとるような目でまっすぐな視線を向けてくる。

「第三王子護衛、ジェイク・ライクストンです。カロン姫。どうぞお見知りおきを」

「はい……」

 カラカラになった喉をこくりとならし、カロンはどうにか返事をした。

 彼のカロンの呼び方は少し独特の訛りがあり、カロンではなく「シャロン」と呼ばれたような気がする。
 その声に早くなった自分の脈と、不意に涙が出そうになったことに戸惑い、カロンは視線をさまよわせた。