ぽっかりと胸に穴が開いたまま、ジェイクは騎士になるべく勤しみ続けた。
あの夜降った雪は近年まれに見る大雪になり、雪かきをしたり屋根が壊れそうだと言う領民の手助けにと駆け回った。自分を罰するように働き続ける姿は、周囲の人間には大人になった自覚を持つ頼もしい若者に見えたようだ。
王女と正騎士は予定より長く滞在した。だが感情をなくしたように働くジェイクは最低限礼儀正しく接しはするが、ほぼ彼らと顔を合わせることがないよう主に外で働いていた。
夜くたくたになって泥のように眠り、大領地へ旅立つ日が来る頃。ジェイクはようやく気持ちを少しだけ切り替え、自分のすべきことを考えるようになった。
あの小悪党がいない今、自分が暗殺されかける未来はもう来ない。
今は四年後に山が火を噴くのに備え、領民を守ることに尽力すべきだと改めて考えた。
紅蓮の館で得た知識から、眠っている山が再び火を噴く可能性を父である領主と義兄に訴える。それを止める手立てはない。
過去の噴火の資料を見た限り、四年後の噴火の規模はさほど大きいものとは言えなかったようだ。
だがあの日はジェイクの婚姻の儀式を山の神の元で開いていたため、同行していた領民への被害が大きくなった。
収穫の時期が終わったばかりで、気持ちのいい天気の日だ。
歴史が万が一にもズレることを考えれば、あの噴火の日前後は決して山に入らないようにすべきだ。狩りに適している時期だが、その間は禁止せざるを得ないだろう。あの頃獲物が一時多かったのは、危険を予知した動物が逃げていたからなのかもしれない。
クロウが次期領主になることで、大領主との意思の疎通が滑らかになるはずだ。
噴石が飛ぶ当たりの領民に別の土地を用意すること、一時的な避難場所を確保する準備を話し合った。父も義兄も真剣に考えてくれたのは、紅蓮の館と白き魔女の影響だろう。
それだけでも、ジェイクが時をさかのぼった甲斐があるというものだ。
大領地で騎士見習いとして働くようになり、一層鍛錬にも勉学にも励んだ。周りが望むなら惜しみなく知識を分け与えた。
すっかり口数が少なくなったが、周りの人間はほぼ知らないものばかりだったためジェイクの変化に気づいたものはいない。年の割に寡黙で勤勉な男――それが彼への評価だった。
春が近づいたころ、姉から手紙が届いた。
シャロンから届いたジェイク宛ての手紙を送ってくれたのだ。
鳥に運ばせるためか、透けそうなほど薄く小さな紙だった。そこには小さな文字でびっしりと、当初の予定を変えて海を越えた国にいる旨が書かれていた。初めて訪れるそこは冬がなく、色鮮やかな色彩の国だと言う。
「シャロン……」
情けないことだが、彼女に呆れられ見捨てられたわけじゃなかったと、年甲斐もなく鼻の奥がツンと痛んだ。ジェイクの体を気遣う言葉に、知らず笑みが浮かぶ。
少なくともシャロンは今もジェイクを気にかけ、友人として想っていてくれている。
だが懸念していた通り、彼女の旅は前世とは違うもののようだ。
こちらから連絡する術はなかったが、いつか訪れるかもしれない時のために、ジェイクも彼女への返事を小さな紙片に認めた。
「君の声が聞きたいよ」
あの夜降った雪は近年まれに見る大雪になり、雪かきをしたり屋根が壊れそうだと言う領民の手助けにと駆け回った。自分を罰するように働き続ける姿は、周囲の人間には大人になった自覚を持つ頼もしい若者に見えたようだ。
王女と正騎士は予定より長く滞在した。だが感情をなくしたように働くジェイクは最低限礼儀正しく接しはするが、ほぼ彼らと顔を合わせることがないよう主に外で働いていた。
夜くたくたになって泥のように眠り、大領地へ旅立つ日が来る頃。ジェイクはようやく気持ちを少しだけ切り替え、自分のすべきことを考えるようになった。
あの小悪党がいない今、自分が暗殺されかける未来はもう来ない。
今は四年後に山が火を噴くのに備え、領民を守ることに尽力すべきだと改めて考えた。
紅蓮の館で得た知識から、眠っている山が再び火を噴く可能性を父である領主と義兄に訴える。それを止める手立てはない。
過去の噴火の資料を見た限り、四年後の噴火の規模はさほど大きいものとは言えなかったようだ。
だがあの日はジェイクの婚姻の儀式を山の神の元で開いていたため、同行していた領民への被害が大きくなった。
収穫の時期が終わったばかりで、気持ちのいい天気の日だ。
歴史が万が一にもズレることを考えれば、あの噴火の日前後は決して山に入らないようにすべきだ。狩りに適している時期だが、その間は禁止せざるを得ないだろう。あの頃獲物が一時多かったのは、危険を予知した動物が逃げていたからなのかもしれない。
クロウが次期領主になることで、大領主との意思の疎通が滑らかになるはずだ。
噴石が飛ぶ当たりの領民に別の土地を用意すること、一時的な避難場所を確保する準備を話し合った。父も義兄も真剣に考えてくれたのは、紅蓮の館と白き魔女の影響だろう。
それだけでも、ジェイクが時をさかのぼった甲斐があるというものだ。
大領地で騎士見習いとして働くようになり、一層鍛錬にも勉学にも励んだ。周りが望むなら惜しみなく知識を分け与えた。
すっかり口数が少なくなったが、周りの人間はほぼ知らないものばかりだったためジェイクの変化に気づいたものはいない。年の割に寡黙で勤勉な男――それが彼への評価だった。
春が近づいたころ、姉から手紙が届いた。
シャロンから届いたジェイク宛ての手紙を送ってくれたのだ。
鳥に運ばせるためか、透けそうなほど薄く小さな紙だった。そこには小さな文字でびっしりと、当初の予定を変えて海を越えた国にいる旨が書かれていた。初めて訪れるそこは冬がなく、色鮮やかな色彩の国だと言う。
「シャロン……」
情けないことだが、彼女に呆れられ見捨てられたわけじゃなかったと、年甲斐もなく鼻の奥がツンと痛んだ。ジェイクの体を気遣う言葉に、知らず笑みが浮かぶ。
少なくともシャロンは今もジェイクを気にかけ、友人として想っていてくれている。
だが懸念していた通り、彼女の旅は前世とは違うもののようだ。
こちらから連絡する術はなかったが、いつか訪れるかもしれない時のために、ジェイクも彼女への返事を小さな紙片に認めた。
「君の声が聞きたいよ」



