時をかけた騎士と紅蓮の館の白き魔女

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 ジェイクは宴の準備の手伝いをしながら、そわそわと落ち着かない気分だった。

 紅蓮の館の移動は以前と変わらないことは分かった。前と同じなら、このまま十八歳までほぼシャロンに会えない。だがこのあと、館が旅立つ前にミネルバから遠話石をもらって、連絡がとれるようになるはずだ。
 だが未来が変わっているので、このままどうなるか予測がつきにくくなっているのが少し気がかりだった。

 ミネルバからは前世以上のことを学んだ。これはいい点だ。
 シアの婚約者だったブラッドリアンは結婚前に死んだ。ジェイクが直接手を下したわけではない。きっかけを作り、放置した。――ただそれだけだ。

 前世では、姉はジェイクが十三歳のときに嫁いでいった。

 ブラッドリアンは父の部下で、姉が幼いころに決まった許嫁だった。ジェイクは初めて会った時から、嫌な目をした男だと思っていた。ジェイクが領主になれば、自分の部下になるはずの男だったが、なぜかこちらを下に見る態度が気に入らない。だがそれは自分の前だけだったので、自分は侮られているのだろうと考えていた。だからこそ、騎士になるべく精進しようと思ったし、事実そうしたのだ。

 ジェイクが大領主のもとで騎士見習いになると、なぜか小領地の一部を管理しているはずのブラッドリアンは頻繁に城を訪れるようになったらしい。だがなぜか姉を連れてくることは滅多にないという。
 あの頃は、姉が城の切り盛りに忙しく、その後はお産や子育てで手が離せないのだと信じていた。いや、半分程度は真実も混ざっていたから信じざるを得なかったのだ。

 ジェイクが十八歳で正式な騎士になったとき、父が流感で亡くなり、予定よりも早く領主になることになった。領地に帰って同時に、王の選んだ相手と結婚することが決まっていたのだ。今はもう、名前さえ覚えていない女と。
 
「父が本当は殺されたなど、考えもしなかった」

 王のもとでは警戒していたことも、田舎領には無縁のことだと考えていた。何と愚かだったことか。ブラッドリアンに送り込まれた従者に、父は少しずつ毒を盛られていたのだ。だが父は、彼の意図に反し長く生きた。

 父の死の直後、ジェイクが騎士に就任して、即帰ってくるのは予想外だったらしい。ブラッドリアンの計画ではもっと早くに父は亡くなり、ジェイクの後見人としてラゴン領の領主になる予定だった。

「そしてぼくも亡き者にして、終幕(ジ・エンド)

 だが予定が狂ったブラッドリアンは、ジェイクの結婚式で彼の暗殺を決行しようとした。シャロンのおかげで毒はほとんど口にせずに済んだが、地が揺れ山が火を噴き――。

 ジェイクはそこまで記憶をたどり、ゆっくり頭を振る。

「絶対繰り返さない」

 自分は領主にはならないから、王から妻をあてがわれることはない。
 ブラッドリアンはもういないから、家族は無事だ。
 クロウを発見したときは驚いた。前世でも彼のことは知っていた。大領主の三男で、王の優秀な騎士の一人。人格も申し分なく、彼を見た瞬間、絶対姉と結婚させ、自分の代わりに領主になってもらおうと考えた。
 シアが彼から愛されることを、全く疑わなかったし、事実そうなった。天啓とはきっとこういうことを言うのだろう。

 これで自分が領主になることはない。
 騎士になり、シャロンと旅に出るのだとの決意が完全に固まった。

「まずは宴だな」

 春を寿ぐ宴では、新年の鐘がなってる間に隣にいる異性に接吻(キス)をする習慣があるのだ。そこでジェイクはシャロンに初めてのキスをしようと決めた。