【WEB版】無能才女は余命わずかなようなので、 最後に好きにさせていただきます ~クズ家族と離れたら健康になるどころか、稀代の才能が開花しました~

「君は、ここに住んでいるのか?」
「はい、この丘から北東に村があります。その一角に住居を構え、細々と生活しております」
「一人で? 家族と?」

 なんだかやけにグイグイくる。私の戸惑いを相手は感じ取ったようだ。

「弟からの手紙の八割がリディアという女性だったから、気になっていたんだ」

 ああ、そういうことね。
 テオドールは私との日々を手紙にしていたってことね。

「ありがたいことですわ」

 口元に手を当て、頬を緩める。

「お兄さまも今度、リディアの野菜を食べるといいよ! とっても美味しいから」

 はしゃぐテオドールに注ぐアレク様の眼差しはすごく優しかった。
 だがテオドールは口を手で抑え、いきなり咳き込み始めた。とても辛そうで見ている方も苦しい。

「ちょっと失礼します」

 アレク様の前を通り、ベッドで咳き込むテオドールに近づく。

「大丈夫よ、ゆっくり息を吐いて」

 そっと背中をさすり、呼吸が楽になるように祈りを込める。

「落ち着いて、私が側にいるから」

 ああ、私がテオドールの病気を治してあげることができたのなら―――。

 自分でも無意識に、自然と手に力を込めていたのだと思う。

「テオドールの体を蝕む病よ、消え去って」

 祈るように吐き出した言葉と共に、体の中を流れる温かいものを感じる。
 意図せずに淡い光が漏れ出た手で、テオドールの背中をさすり続ける。
 私の手から魔力が放出され、テオドールを治療しているのがわかる。
 私は必死にテオドールの背中をさすり続けた。やがて咳き込む声が小さくなってきたことにホッとすると、輝く光が消滅していった。

「ありがとう、リディア。いつも背中をさすってもらうと、元気になるんだ」

 テオドールが目をこすったので、眠るように勧めた。横になったテオドールはすぐさま眠りについた。心地よい寝息がスースーと聞こえる。

「今のは魔力か――?」

 唖然とした声が聞こえ、そこでハッとした。

 そうだ、部屋には私とテオドール以外に、アレク様がいらっしゃったんだ。テオドールを救いたいという一心で、頭から抜けていたわ。

 どうしよう、今のを見られていたわよね……? でもあまり、知られたくない!!

「あの、秘密にしていただけますか」
「……」

 彼は両腕を組み、静かに私を見下ろすが、考え込んでいるようだ。もしくは私を見定めているのか。
 そうよね、初対面の女がいきなり魔力を使って、秘密にしてくださいなんて怪しく思うわよね。息をスッと吸い込み、アレク様の目をジッと見つめる。

「……目立つことは避けたいのです。私は静かな暮らしを願っているので」

 しばらく見つめ合ったのち、先に口を開いたのはアレク様の方だった。

「事情があるようだな」

 はい、そうなんです! 察しが良くて助かります!!

 私は言葉にせずともブンブンと首を縦に振った。

「――では、しばらく屋敷に通ってくれないか? 弟を治療して欲しい」
「それは私としてもできる限り、力になりたいと思います」

 テオドールを治療したい、その気持ちは本物だ。

「ですが、毎日は難しいかもしれません」

 テオドールだけじゃなく、療養施設の子たちも診てあげたいし、薬草も育てなければいけない。
 残された時間、やりたいことはいっぱいある。

「そうか。毎日来れないのなら、うっかり口が滑ってしまうかもしれないな」
「えっ……」

 その口調は、まるで交換条件だとでも言いたげだ。
 アレク様は美麗な顔に爽やかな笑みを浮かべた。

 ポカンと口を開ける私を見て、肩を震わせ笑っている。

 これって、暗に脅しをかけているのかしら? 爽やかな容貌で素敵だと思ったけれど、腹黒くない?

 ちょっと、なかなかいい根性をお持ちじゃない。

「で、ですが、それなりに距離もありますし――」

 だが私も負けずに抗い、毎日は大変だと訴えてみる。

「安心してくれ。毎日迎えに行くから」

 それは拒否できないやつ……! 全力で聞かなかったことにしたい。

「それに弟も君に会えると嬉しそうだ。君だってテオドールの笑顔が見たいだろう?」
「ええ、それは、まぁ……」

 それはそうだけでさぁ‼

「じゃあ、決まりだな」

 強引すぎる話に引きつった私の顔を見て、アレク様は微笑んだ。